ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
2009/10/28 (Wed)
悪戯な預言者
朝の優しい陽光が差し込む部屋。
小鳥たちの囀りに眠りから覚めたキラは半濁した意識の中、寝返りを打った。
目を開ければ見慣れない天井が映って、キラの意識は一気に覚醒した。
(え……ここ……?)
がばっと起き上がると、シーツが素肌を滑り落ちる感覚がして視線を落とす。
「う…そ……」
キラは自分の体型が嫌いでならなかった。体は細いのに育ちすぎてしまった胸は、昔から男性のセクシャルな視線に晒され、キラのコンプレックスを刺激した。
その裸の、豊かな自分の胸に広がる無数の紅い華を見て、キラの思考は停止した。肌が白い分、それは余計に目立つ。
呆然と鬱血した跡を眺めていると、カチャッとドアの開く音がして、キラは思わず振り返る。
「あぁ、起きた?」
声の主が、ゆっくりとベッドに近付いてくる。
シャワーを浴びたのか濃紺の髪から水滴が滴り落ち、剥き出しの逞しい胸元を濡らした。辛うじて下半身は黒いジーンズを身に着けている。
「……ザラ……さん……?」
彼の顔に見覚えがあった。昨夜、親友のミリアリアに半ば強引に連れて行かれた合コンで、男性陣の中にいた一人が目の前の彼――アスラン・ザラだ。
キラはああいった場は得意ではなかったから目立たないよう隅にいたのに、彼はやたらとキラを構ったのだ。しかも、彼はとても秀麗な顔立ちで大病院の御曹司だったものだから、キラは女性陣の嫉妬の視線を一身に浴びることになってしまった。
キラにとっては迷惑以外の何ものでもなくて、彼女たちの視線から逃れるために強くもない酒を飲んでいた気がする。
『気がする』というのは、キラの記憶が途中からないからだ。そして、気が付いたときにはここにいた。
アスランはベッドのすぐ手前で立ち止まって、キラをまじまじと眺めた。
「……な、何ですか?」
「いや、朝からやけに扇情的な光景だなと思って」
何を言われているのか理解できなかった。
にやにやと笑みを浮かべる彼の視線を辿って視線を下げると、自分の白い肌が目に映った。
「きゃー!」
咄嗟にシーツを手繰り寄せ、彼の目からそれを隠す。
「あれ、残念。もう隠しちゃうの?」
「あ、当たり前でしょ!」
キラは近くにあった枕を、アスラン目掛けて投げ付けた。彼は余裕でそれを受け止めて、ベッドの端に腰を下ろした。
首に下げたタオルで髪を拭く彼の広い背中を眺めながら、キラは気になっていたことを訊ねた。
「あの……ここ……?」
「ん? ここは俺の家。君は昨日の合コンで酔い潰れたんだよ。俺は君の友人――ハウさんだったかな――に頼まれたんだけど、住所を聞き忘れてしまってね。仕方ないからここに運んだわけ」
(ミリィの奴ぅ――!)
キラはアスランのような女性に手馴れているタイプが苦手で、ミリアリアもそれを良く知っていたはずだ。ということは、面白がってキラを彼に押し付けたに違いない。
キラは心の中で彼女を呪った。
彼女のおかげで、キラは今とんでもない状況に置かれているのだ。
とは言え、キラにはまったく記憶がない。本当に彼とそういうことを致してしまったのだろうか?
「……あの……それで、その……」
どうやって聞き出そうかと思案していると、アスランが振り向いて核心を突いてきた。
「俺が君を抱いたかどうか、気になる?」
キラは小さく頷いた。
アスランの秀麗な顔がにやける。
「君としては抱いてないと言ってほしいんだろうけど、残念ながら俺は君とセックスをしたよ。君も体に違和感があるだろう?」
キラは真っ赤になって言葉に詰まった。
キスマークはその象徴でもあるし、体が気だるいのも確かだった。
「あ、貴方は意識がない人間にそういうことをするんですかっ!」
彼の容姿なら女性の誘いなど引く手数多だろうに、酔い潰れた自分を抱くなんて卑怯だとキラは思った。だが、アスランは驚いたように目を瞬かせ、それからくすくすと笑った。
「まさか。俺はそこまで卑怯な男じゃない。確かに君は酔ってはいたけど、意識はあったよ。だから君を誘ったし、君もそれを了承した。すべて合意の上だよ。まぁ、俺も昨日は酔っていて余裕がなかったから、少し無理をさせたかもしれないけど……体に痛いところとかない?」
アスランは優しい笑みを浮かべたまま、キラへと腕を伸ばす。キラは思わず体を後ろに引いて、その腕を避けた。アスランの手が一瞬空を切ったが、彼は戸惑うことなく更に腕を伸ばしてキラの長い栗色の髪を一房掬った。
「つれないな、君は。あんなに情熱的に愛し合ったのに……」
「な、何を――!」
「本当のことだよ。酔った君は色っぽくて、すごく大胆だった。俺の理性が消し飛ぶくらい、ね。どこもかしこも敏感で、俺はずっと煽られっぱなしだったよ。体の相性も良かったし」
アスランはキラから視線を外さずに掬った髪に口づけながら、にやりと口角を吊り上げた。
「僕の記憶にはないっ!」
恥ずかしくて、早くこの男から逃れようと彼が掴んでいた髪の毛を引っ張ると、それは呆気なく彼の手からすり抜けた。
彼は名残惜しそうにそれを見送って、キラに睨まれると諦めたように肩を竦めた。
「仕方ない。今日のところは見逃してあげる」
「『今日のところは』って……」
「だから、今日は本気で口説かないってこと。これ以上、君に嫌われたくないしね」
「何、言って……」
「君には迷惑かもしれないけど、俺は本気で君を気に入っている。好きだよ、君が」
キラはアスランの顔をぽかんと見つめた。
この男は一体何を言っているのだろう――?
キラは一目惚れなど信じない性質だし、良く知らない相手とは付き合えない。これまでの恋人は、皆一様に友人だった期間が長かった。それなのに昨日出遭ったばかりの自分に『好きだ』と言うこの男の気が知れない、と思うのも無理はなかった。
アスランはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「すごい間抜け面。可愛い顔が台無しだな」
「煩いっ!」
キラは再び枕を掴んで投げ付けようとした。だが、その腕はあっさりとアスランに掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。
「俺は本気だよ。今度、会ったら君を全力で口説かせてもらう」
腰を抱かれ、唇が触れそうな距離で囁かれる。甘いテノールの響きに、昨夜、彼を受け入れた場所がずくんと疼いた。それから、彼の胸元に顔を引き寄せられたと思ったら、耳の裏の辺りにちくりと小さな痛みが走った。
「あっ」
驚いてアスランの胸をどんっと突き飛ばすと、彼は悪戯が成功した子どもみたいな笑顔を見せた。
「耳の裏のキスマーク。それが消える前に、また君に会えるよ」
彼の預言めいた言葉は鼻で笑うには確信に満ちていて、キラはぱくぱくと口を開閉させることしかできなかった。
「帰る!」
キラはシーツを巻き付けたままベッドの上に立ち上がった。
「もう帰るのか? シャワーくらい浴びていけばいいだろう」
「結構です!」
ずるずるとシーツを引き摺りながら、床に散乱した服を掻き集める。片手で抑えていたシーツを床に落とそうとしたとき、キラは背中に視線を感じた。
「僕、着替えたいんだけどっ」
キラはイライラしながら文句を言った。アスランがベッドに座ったまま、にやけた顔でキラの着替えを観察する気でいるのに気付いたからだ。
「ああ、俺に構わず、どうぞ続けて」
「君が良くても、僕が嫌なの」
「なんだ、恥ずかしい? 俺は昨日、君の体を隅々まで見たんだよ。今更じゃないか」
「そういう問題じゃない!」
早く出て行って、とキラはアスランを部屋の外へ押し出した。そして、内側から鍵を掛けて、背中からドアに凭れ掛かった。
キラはため息をついた。
体に残る疲労は、きっとアスランに抱かれたからだけではないはずだ。彼の明け透けな発言の数々が、キラをどっと疲れさせたことは間違いなかった。
数分後、身支度を整えたキラが寝室から出ると、白いシャツを羽織ったアスランが目の前の壁に背中を預けて立っていた。
「あ、終わった? 送るよ」
アスランが手に持った車の鍵を揺らして近寄ってくる。キラはそれを無視して、玄関へと進んだ。
「まだ体、だるいんだろ? 遠慮しないで。送って行くから」
「大丈夫です。必要ありません」
取り付く島のないキラの態度に、アスランがくすりと苦笑する気配がした。
「大人しい子かと思ってたのに、君って結構、気が強いんだな」
「大人しい子がお好みなら、他を当たってください」
「いいや、そういうギャップも魅力的だ」
何を言っても無駄だと思った。
どれだけ冷たく接しても、アスランを愉しませるだけだ。
パンプスを履きながらこれ見よがしにため息をつく。
とりあえず、厭味ったらしく「お世話になりました」とでも言ってやろうと振り向くと、狙ったようにすぐ目の前に彼の顔が迫っていた。
キラは目を丸くした。
抵抗する間もなく、唇が奪われる。
「んーっ!」
くぐもった声が漏れる。
アスランの胸を押して抵抗すると、腰を引き寄せられて体が密着した。ちろちろと下唇を擽られ、反射的に口を開くと彼の舌が口内に侵入する。
キラは気が動転して、舌を噛むことさえ思いつかない。その間にも、彼の舌は縦横無尽にキラの口内を犯し続ける。舌を絡み取られ、甘噛みされるとぞくぞくと背中に快感が走る。
「ん、んんっ…ぅん……ふぁ……」
記憶にはなくても、彼から与えられた熱をキラの体は憶えていた。体が無意識に快感を追おうとするのを、キラは目を硬く閉じて耐えた。
がくがくと足が震える。アスランに抱き締められているから、何とか立っていられた。
アスランのシャツの胸元を握ると、それが合図だったようにちゅっと唇を軽く吸われて体を放された。
はぁ、はぁ、と息を乱して、キラはアスランを睨み付けた。しかし、彼はまったく悪びれた様子もない。
「またね――――キラ」
すっかり満足気味のアスランの笑顔がキラの逆鱗に触れた。
「僕は二度と会いたくないっ!!」
壊れるかと思うほどの勢いでドアを閉めて、キラはアスランの部屋を後にした。ドアが閉まる直前、彼の抑えた笑い声が聞こえた。
(最低っ。さいてー! サイテー!!)
あんな男に抱かれたなんて、キラの二十七年間の人生の中で最大の汚点だ。
一発くらい殴ってくれば良かったと後悔する。
キラはその朝、彼によって呼び起こされた体の奥に燻る熱を抱え、煮え繰り返る怒りに唇を噛み締めた。
翌日、あんなことがあったせいで昨日の休日を満喫できなかったキラは、朝から機嫌が悪かった。同僚たちも不機嫌なオーラを撒き散らすキラに声を掛けることもできず、そそくさとロッカールームを立ち去る。
そんなキラの不機嫌なオーラを一身に浴びたのが、諸悪の根源――ミリアリアだった。
キラはミリアリアに散々怒りをぶちまけた後、ロッカールームを出た。
「あ、待ってよ、キラ!」
人通りの少ない廊下で、ミリアリアはキラに追い着いた。
「キラァ、ごめんってば。私も酔っ払ってたし、あの人が『大丈夫だ』って言うから、じゃあ、いいかって。まぁ、手が早そうだなぁとは思ってたんだけどね」
ミリアリアの謝る態度の端々に面白がっているような気配を感じて、キラは彼女に宣言した。
「ミリィとは、当分口聞かないから!」
「ちょっと、キラッ!」
ずんずんと廊下を歩くキラの後を、ミリアリアが必死に追いかける。
丁度、廊下の中ほどに差し掛かったとき、キラは突然その歩みを止めた。
「キラ?」
その背中に怪訝な表情でミリアリアが話し掛ける。しかし、キラは前方を見つめたまま動かない。
不審に思いながら、ミリアリアはキラの視線を辿り、はっと息を呑んだ。
「――あの人……」
キラたちの視線の先には、SEED病院の外科部長の姿。それは特別、不思議な光景ではない。
この病院の外科で働くキラたちには見慣れた姿だった。
ただ、彼の後ろを歩く青年に驚愕した。
「……アスラン…ザラ……」
何故、彼がここにいるのか?
彼は自身の親が経営するザラ総合病院の外科医だったはずだ。
キラは自分の目に映った彼の姿を信じられずにいた。
『耳の裏のキスマーク。それが消える前に、また君に会えるよ』
あのときの言葉が脳裡に甦って、彼に吸われた場所がちりっと焦げるように痛んだ。
アスランは落としていた視線を不意に上げて、キラに目を据える。彼の表情には色がなく、何を思っているのか読み取れない。
近付く二人の距離――――。
しかし、キラは彼から視線を外せなかった。
ダークグリーンのスーツが、キラの視界を過ぎる。
「ほら、また会えた」
通りすぎ様、ぽそっと耳元で囁かれて、キラは耳を手で覆った。
ぎょっとして振り向くと、ふっと微笑んだアスランの横顔が目に入った。しかし、それは一瞬のことで、彼はすぐに前方を向いて、外科部長の後ろを歩きながらキラから遠ざかっていく。
きゃーきゃーと騒ぐミリアリアを尻目に、キラは我を忘れてその場に立ち尽くしていた。
何かが呼び起こされる感覚。
記憶にないはずなのに、彼のつけた所有の印がじくじくと疼いて、与えられた熱がカラダの奥で孕む。
ゆっくりと侵蝕する遅効性の媚薬のように、カラダが無意識に貴方を求める。
嗚呼、だからどうか私の預言者よ。
もうこれ以上、私の体内(なか)を暴かないで――――。
「キーラ、合コンに行こ?」
同じ病院で働く高校からの親友のこの言葉が、キラの不幸の始まりだった。
同じ病院で働く高校からの親友のこの言葉が、キラの不幸の始まりだった。
悪戯な預言者
朝の優しい陽光が差し込む部屋。
小鳥たちの囀りに眠りから覚めたキラは半濁した意識の中、寝返りを打った。
目を開ければ見慣れない天井が映って、キラの意識は一気に覚醒した。
(え……ここ……?)
がばっと起き上がると、シーツが素肌を滑り落ちる感覚がして視線を落とす。
「う…そ……」
キラは自分の体型が嫌いでならなかった。体は細いのに育ちすぎてしまった胸は、昔から男性のセクシャルな視線に晒され、キラのコンプレックスを刺激した。
その裸の、豊かな自分の胸に広がる無数の紅い華を見て、キラの思考は停止した。肌が白い分、それは余計に目立つ。
呆然と鬱血した跡を眺めていると、カチャッとドアの開く音がして、キラは思わず振り返る。
「あぁ、起きた?」
声の主が、ゆっくりとベッドに近付いてくる。
シャワーを浴びたのか濃紺の髪から水滴が滴り落ち、剥き出しの逞しい胸元を濡らした。辛うじて下半身は黒いジーンズを身に着けている。
「……ザラ……さん……?」
彼の顔に見覚えがあった。昨夜、親友のミリアリアに半ば強引に連れて行かれた合コンで、男性陣の中にいた一人が目の前の彼――アスラン・ザラだ。
キラはああいった場は得意ではなかったから目立たないよう隅にいたのに、彼はやたらとキラを構ったのだ。しかも、彼はとても秀麗な顔立ちで大病院の御曹司だったものだから、キラは女性陣の嫉妬の視線を一身に浴びることになってしまった。
キラにとっては迷惑以外の何ものでもなくて、彼女たちの視線から逃れるために強くもない酒を飲んでいた気がする。
『気がする』というのは、キラの記憶が途中からないからだ。そして、気が付いたときにはここにいた。
アスランはベッドのすぐ手前で立ち止まって、キラをまじまじと眺めた。
「……な、何ですか?」
「いや、朝からやけに扇情的な光景だなと思って」
何を言われているのか理解できなかった。
にやにやと笑みを浮かべる彼の視線を辿って視線を下げると、自分の白い肌が目に映った。
「きゃー!」
咄嗟にシーツを手繰り寄せ、彼の目からそれを隠す。
「あれ、残念。もう隠しちゃうの?」
「あ、当たり前でしょ!」
キラは近くにあった枕を、アスラン目掛けて投げ付けた。彼は余裕でそれを受け止めて、ベッドの端に腰を下ろした。
首に下げたタオルで髪を拭く彼の広い背中を眺めながら、キラは気になっていたことを訊ねた。
「あの……ここ……?」
「ん? ここは俺の家。君は昨日の合コンで酔い潰れたんだよ。俺は君の友人――ハウさんだったかな――に頼まれたんだけど、住所を聞き忘れてしまってね。仕方ないからここに運んだわけ」
(ミリィの奴ぅ――!)
キラはアスランのような女性に手馴れているタイプが苦手で、ミリアリアもそれを良く知っていたはずだ。ということは、面白がってキラを彼に押し付けたに違いない。
キラは心の中で彼女を呪った。
彼女のおかげで、キラは今とんでもない状況に置かれているのだ。
とは言え、キラにはまったく記憶がない。本当に彼とそういうことを致してしまったのだろうか?
「……あの……それで、その……」
どうやって聞き出そうかと思案していると、アスランが振り向いて核心を突いてきた。
「俺が君を抱いたかどうか、気になる?」
キラは小さく頷いた。
アスランの秀麗な顔がにやける。
「君としては抱いてないと言ってほしいんだろうけど、残念ながら俺は君とセックスをしたよ。君も体に違和感があるだろう?」
キラは真っ赤になって言葉に詰まった。
キスマークはその象徴でもあるし、体が気だるいのも確かだった。
「あ、貴方は意識がない人間にそういうことをするんですかっ!」
彼の容姿なら女性の誘いなど引く手数多だろうに、酔い潰れた自分を抱くなんて卑怯だとキラは思った。だが、アスランは驚いたように目を瞬かせ、それからくすくすと笑った。
「まさか。俺はそこまで卑怯な男じゃない。確かに君は酔ってはいたけど、意識はあったよ。だから君を誘ったし、君もそれを了承した。すべて合意の上だよ。まぁ、俺も昨日は酔っていて余裕がなかったから、少し無理をさせたかもしれないけど……体に痛いところとかない?」
アスランは優しい笑みを浮かべたまま、キラへと腕を伸ばす。キラは思わず体を後ろに引いて、その腕を避けた。アスランの手が一瞬空を切ったが、彼は戸惑うことなく更に腕を伸ばしてキラの長い栗色の髪を一房掬った。
「つれないな、君は。あんなに情熱的に愛し合ったのに……」
「な、何を――!」
「本当のことだよ。酔った君は色っぽくて、すごく大胆だった。俺の理性が消し飛ぶくらい、ね。どこもかしこも敏感で、俺はずっと煽られっぱなしだったよ。体の相性も良かったし」
アスランはキラから視線を外さずに掬った髪に口づけながら、にやりと口角を吊り上げた。
「僕の記憶にはないっ!」
恥ずかしくて、早くこの男から逃れようと彼が掴んでいた髪の毛を引っ張ると、それは呆気なく彼の手からすり抜けた。
彼は名残惜しそうにそれを見送って、キラに睨まれると諦めたように肩を竦めた。
「仕方ない。今日のところは見逃してあげる」
「『今日のところは』って……」
「だから、今日は本気で口説かないってこと。これ以上、君に嫌われたくないしね」
「何、言って……」
「君には迷惑かもしれないけど、俺は本気で君を気に入っている。好きだよ、君が」
キラはアスランの顔をぽかんと見つめた。
この男は一体何を言っているのだろう――?
キラは一目惚れなど信じない性質だし、良く知らない相手とは付き合えない。これまでの恋人は、皆一様に友人だった期間が長かった。それなのに昨日出遭ったばかりの自分に『好きだ』と言うこの男の気が知れない、と思うのも無理はなかった。
アスランはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「すごい間抜け面。可愛い顔が台無しだな」
「煩いっ!」
キラは再び枕を掴んで投げ付けようとした。だが、その腕はあっさりとアスランに掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。
「俺は本気だよ。今度、会ったら君を全力で口説かせてもらう」
腰を抱かれ、唇が触れそうな距離で囁かれる。甘いテノールの響きに、昨夜、彼を受け入れた場所がずくんと疼いた。それから、彼の胸元に顔を引き寄せられたと思ったら、耳の裏の辺りにちくりと小さな痛みが走った。
「あっ」
驚いてアスランの胸をどんっと突き飛ばすと、彼は悪戯が成功した子どもみたいな笑顔を見せた。
「耳の裏のキスマーク。それが消える前に、また君に会えるよ」
彼の預言めいた言葉は鼻で笑うには確信に満ちていて、キラはぱくぱくと口を開閉させることしかできなかった。
「帰る!」
キラはシーツを巻き付けたままベッドの上に立ち上がった。
「もう帰るのか? シャワーくらい浴びていけばいいだろう」
「結構です!」
ずるずるとシーツを引き摺りながら、床に散乱した服を掻き集める。片手で抑えていたシーツを床に落とそうとしたとき、キラは背中に視線を感じた。
「僕、着替えたいんだけどっ」
キラはイライラしながら文句を言った。アスランがベッドに座ったまま、にやけた顔でキラの着替えを観察する気でいるのに気付いたからだ。
「ああ、俺に構わず、どうぞ続けて」
「君が良くても、僕が嫌なの」
「なんだ、恥ずかしい? 俺は昨日、君の体を隅々まで見たんだよ。今更じゃないか」
「そういう問題じゃない!」
早く出て行って、とキラはアスランを部屋の外へ押し出した。そして、内側から鍵を掛けて、背中からドアに凭れ掛かった。
キラはため息をついた。
体に残る疲労は、きっとアスランに抱かれたからだけではないはずだ。彼の明け透けな発言の数々が、キラをどっと疲れさせたことは間違いなかった。
数分後、身支度を整えたキラが寝室から出ると、白いシャツを羽織ったアスランが目の前の壁に背中を預けて立っていた。
「あ、終わった? 送るよ」
アスランが手に持った車の鍵を揺らして近寄ってくる。キラはそれを無視して、玄関へと進んだ。
「まだ体、だるいんだろ? 遠慮しないで。送って行くから」
「大丈夫です。必要ありません」
取り付く島のないキラの態度に、アスランがくすりと苦笑する気配がした。
「大人しい子かと思ってたのに、君って結構、気が強いんだな」
「大人しい子がお好みなら、他を当たってください」
「いいや、そういうギャップも魅力的だ」
何を言っても無駄だと思った。
どれだけ冷たく接しても、アスランを愉しませるだけだ。
パンプスを履きながらこれ見よがしにため息をつく。
とりあえず、厭味ったらしく「お世話になりました」とでも言ってやろうと振り向くと、狙ったようにすぐ目の前に彼の顔が迫っていた。
キラは目を丸くした。
抵抗する間もなく、唇が奪われる。
「んーっ!」
くぐもった声が漏れる。
アスランの胸を押して抵抗すると、腰を引き寄せられて体が密着した。ちろちろと下唇を擽られ、反射的に口を開くと彼の舌が口内に侵入する。
キラは気が動転して、舌を噛むことさえ思いつかない。その間にも、彼の舌は縦横無尽にキラの口内を犯し続ける。舌を絡み取られ、甘噛みされるとぞくぞくと背中に快感が走る。
「ん、んんっ…ぅん……ふぁ……」
記憶にはなくても、彼から与えられた熱をキラの体は憶えていた。体が無意識に快感を追おうとするのを、キラは目を硬く閉じて耐えた。
がくがくと足が震える。アスランに抱き締められているから、何とか立っていられた。
アスランのシャツの胸元を握ると、それが合図だったようにちゅっと唇を軽く吸われて体を放された。
はぁ、はぁ、と息を乱して、キラはアスランを睨み付けた。しかし、彼はまったく悪びれた様子もない。
「またね――――キラ」
すっかり満足気味のアスランの笑顔がキラの逆鱗に触れた。
「僕は二度と会いたくないっ!!」
壊れるかと思うほどの勢いでドアを閉めて、キラはアスランの部屋を後にした。ドアが閉まる直前、彼の抑えた笑い声が聞こえた。
(最低っ。さいてー! サイテー!!)
あんな男に抱かれたなんて、キラの二十七年間の人生の中で最大の汚点だ。
一発くらい殴ってくれば良かったと後悔する。
キラはその朝、彼によって呼び起こされた体の奥に燻る熱を抱え、煮え繰り返る怒りに唇を噛み締めた。
翌日、あんなことがあったせいで昨日の休日を満喫できなかったキラは、朝から機嫌が悪かった。同僚たちも不機嫌なオーラを撒き散らすキラに声を掛けることもできず、そそくさとロッカールームを立ち去る。
そんなキラの不機嫌なオーラを一身に浴びたのが、諸悪の根源――ミリアリアだった。
キラはミリアリアに散々怒りをぶちまけた後、ロッカールームを出た。
「あ、待ってよ、キラ!」
人通りの少ない廊下で、ミリアリアはキラに追い着いた。
「キラァ、ごめんってば。私も酔っ払ってたし、あの人が『大丈夫だ』って言うから、じゃあ、いいかって。まぁ、手が早そうだなぁとは思ってたんだけどね」
ミリアリアの謝る態度の端々に面白がっているような気配を感じて、キラは彼女に宣言した。
「ミリィとは、当分口聞かないから!」
「ちょっと、キラッ!」
ずんずんと廊下を歩くキラの後を、ミリアリアが必死に追いかける。
丁度、廊下の中ほどに差し掛かったとき、キラは突然その歩みを止めた。
「キラ?」
その背中に怪訝な表情でミリアリアが話し掛ける。しかし、キラは前方を見つめたまま動かない。
不審に思いながら、ミリアリアはキラの視線を辿り、はっと息を呑んだ。
「――あの人……」
キラたちの視線の先には、SEED病院の外科部長の姿。それは特別、不思議な光景ではない。
この病院の外科で働くキラたちには見慣れた姿だった。
ただ、彼の後ろを歩く青年に驚愕した。
「……アスラン…ザラ……」
何故、彼がここにいるのか?
彼は自身の親が経営するザラ総合病院の外科医だったはずだ。
キラは自分の目に映った彼の姿を信じられずにいた。
『耳の裏のキスマーク。それが消える前に、また君に会えるよ』
あのときの言葉が脳裡に甦って、彼に吸われた場所がちりっと焦げるように痛んだ。
アスランは落としていた視線を不意に上げて、キラに目を据える。彼の表情には色がなく、何を思っているのか読み取れない。
近付く二人の距離――――。
しかし、キラは彼から視線を外せなかった。
ダークグリーンのスーツが、キラの視界を過ぎる。
「ほら、また会えた」
通りすぎ様、ぽそっと耳元で囁かれて、キラは耳を手で覆った。
ぎょっとして振り向くと、ふっと微笑んだアスランの横顔が目に入った。しかし、それは一瞬のことで、彼はすぐに前方を向いて、外科部長の後ろを歩きながらキラから遠ざかっていく。
きゃーきゃーと騒ぐミリアリアを尻目に、キラは我を忘れてその場に立ち尽くしていた。
何かが呼び起こされる感覚。
記憶にないはずなのに、彼のつけた所有の印がじくじくと疼いて、与えられた熱がカラダの奥で孕む。
ゆっくりと侵蝕する遅効性の媚薬のように、カラダが無意識に貴方を求める。
嗚呼、だからどうか私の預言者よ。
もうこれ以上、私の体内(なか)を暴かないで――――。
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HN:
神里 美羽
性別:
女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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