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ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
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2025/05/24 (Sat)
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2009/10/28 (Wed)
 ――――夏休み最後の朝に、それは起こった。


「カガリー。僕、もうすぐ空港に行くけど――って、何してんの!?」
 双子の兄の部屋の入り口で、少女は固まった。
「キ、キラッ!!」
 バルコニーの手すりに片足を掛けたカガリが、少女――キラを振り向いて驚きの声を上げた。

 カガリはこの屋敷があるプラントのザフト学園で、キラはオーブ連合首長国のヘリオポリス市にあるオーブ女学院でそれぞれ寮生活をしていて、長期休暇はいつもここで過ごすのが当たり前になっていた。
 それぞれの学校は始業式の前日に寮に戻ることが決っているから、キラも今日の朝一の便でオーブに帰ることになっていたのだが。
 明日から新学期が始まるというのに、カガリが学校に戻らず、ここから抜け出そうとしているのは明白で。

「ちょ、ちょっと、カガリッ。どこに行く気!?」
「キラ、頼むから見逃してくれ。オレは真実の愛を見つけに行くんだっ!」
 カガリが先週、見合いをさせられそうになったのはキラも知っていた。見合いと言っても形式だけで、実際には将来『ヤマトコーポレーション』を継ぐカガリに少しでも強固な後ろ盾を作ろう、という両親の思惑に沿った政略結婚に近いものだった。
 しかし、相手がどんな人物なのかはキラは勿論、カガリさえも知らなかった。カガリが見合い相手の資料を目を通す前に問答無用で焼き捨てたからだ。更に、当日も仮病を使って約束を反故したため、結局見合いは先延ばしになっていた。

「キラだって、得体の知れない相手が例え義理でも姉になるのは耐えられないだろう?」
「何、訳のわからないこと言ってるの! 大体、学校はどうするつもりさっ」
 キラはカガリを止めようと間合いを詰め、彼の腕を掴もうとした――が。

「ザフト学園にはお前が代わりに行け」

 パサリとどこから出したのか、カガリは自分の髪に似せたウィッグを取り出してキラの頭に被せた。
「はぁぁぁっ!? じゃあ、僕は? オーブ女学院はどうするの?」
「それは心配ない。オーブ女学院にはすでにキラが病気で長期入院している旨の届けは出してある」
 いつからここを出て行く算段をしていたのかはわからないが、用意周到である。
 キラはあんぐりと口を開けた。
「キラは成績優秀だし、多少休んだところで何も問題ないが、オレはダメだ。成績が悪い上に出席日数まで足りなくなったら目も当てられない」
 それは君のせいで僕に責任を押し付けないでよ、と言いたいのに呆れて言葉も出てこない。
「まぁ、ルームメイトはアスランだし、オレとキラは体型も容姿も似てるから大丈夫だ」
 普段はキラと身長が変わらないことに不満を漏らしているのに、こんなときだけ都合のいいカガリをキラは恨みたくなった。
「わ、悪かったね、貧乳でっ」
「悪いのはキラじゃない、アスランだ。きっとあいつの揉み方が足りないんだ。よく揉んでもらえば大丈夫さ」
 とても慰めには聞こえない慰めの言葉を掛け、人の恋人のテクニックにまでダメ出しをして、カガリはやはりどこから取り出したのかわからないザフト学園の制服を、キラの手に押し付けた。
「オレはもう行く。後は頼んだぞ、キラ」
「あ、ちょっとっ!」
 カガリへと伸ばしたキラの手が空を切る。
 易々と手すりを越えたカガリは、宙を舞い、軽やかに芝生の上に着地した。それから、ブンブンと大きく手を振って駆け出すと、屋敷を囲う柵を乗り越えて姿を消した。

「――もうっ、どうすんのさ、これーーーっ!!」



 教育係のキサカがカガリの部屋のバルコニーで途方に暮れたキラを発見したのは、それから数時間後のことだった――――。



 



Substitution Panic 1




『まぁ、カガリは昔から無鉄砲なところがあるが、生活力はあるから大丈夫だろう。一応こちらで捜索するから、キラはとりあえずザフト学園に通いなさい』

 カガリの家出を報告した際の両親の反応は意外にもあっさりしたものだった。
 どうもウチの両親は危機感に欠けていると、キラは自分のことを棚上げして思った。
 しかし、悩んでいてもオーブ女学院には戻れないし、だからといってキラが一人でカガリを捜索する行為を隣にいるキサカが許してくれるとも思えなかったので、諦めてザフト学園まで来たのだが。

 ザフト学園の寮の前で、キラは呆然と立ち尽くした。

 良家の子息が集うこの学園の寮は、やはり豪奢だった。
 まるで中世のヨーロッパの宮殿を髣髴とさせるようなクラシカルな外観に、寮でこれなのだから校舎は一体どうなっているのだろうかと眩暈がする。
 それにザフト学園から漂う雰囲気は重厚というか、威圧的と言うか。
 学力重視のザフト学園と違い、淑女としての教養を身に付けることに重きを置き、ゆったりとしていたお嬢さま学校のオーブ女学院とは雰囲気が違いすぎて、おっとり型のキラとしては本当にこんなところでやっていけるのかと挫けそうになる。
 カガリのバカと今はどこの空の下にいるとも知れない、血を分けた双子の兄に文句の一つでも言いたい心境だ。

「さぁ、キラ様。参りましょう」
 いつの間にか両手に大きなボストンバッグを持ったキサカが横に並んで、勝手のわからないキラを先導するように玄関を潜る。キラも遅れまいとキサカの後を小走りで追いかけた。
 廊下を歩きながら、あまりにも場違いな空気に戸惑っていると、
「キラ様、大丈夫です。双子なだけあって見た目は似てらっしゃいますから、堂々となさっていてください」
 小さく声を掛けられ、安心させるように微笑むキサカを見て、キラはすっと肩から力を抜いた。
 実際には気性の荒いカガリと癒し系のキラでは見た目は似ていても、内面から滲み出る雰囲気はまったく違うのでわかる人にはわかるのだが、キサカはあえてそれを指摘しないことにした。
「こちらです」
 キサカは『206』と番号のついた扉を開けて、キラを振り向いた。キラが神妙な顔で頷くと部屋の中に荷物を置いて、キラの背中を押して促す。
 同室のはずのアスランの姿は見えない。キラは誰もいない部屋を見渡して不安な心のままに振り返ると、キサカが大丈夫と力強く頷いて見せた。
「何かあったら連絡をください。すぐに駆けつけます」
「……はい」
「それでは私はこれで失礼いたします、キラ様」
 部屋のドアがゆっくりと閉まりキサカの姿が見えなくなるまで見送って、キラは小さくため息をついた。
 どうしてこんなことになってしまったのか、今更ながらカガリが恨めしい。
 部屋の中を眺めながら所在無げに佇んでいると、背後のドアがカチャリと開いた。

「カガリ、今戻ったのか?」

 聞き覚えのある声に振り返る。
 ――愛しい彼がいた。

 見る間に大きく見開かれた瞳が、彼の驚きの度合いを示していた。
「……キ、ラ……?」
 当然だろう。昨日、『またしばらく会えなくなるね』と抱き締めあった恋人が目の前にいるのだから。
 きっとカガリそっくりに変装をしても彼にはばれてしまうとわかっていたけれど、こうもあっさり気付かれるとこれからの生活に不安が募る。 
「アスラン」
「……お、前……こんなところで何してるんだ……!?」
「あのね、アスラン。僕……」
 説明しようとすると、アスランが真っ青な顔でキラの肩を掴み揺さぶった。
 グラグラと揺さぶられて、今にも脳震盪を起こしそうだ。
「ちょっと待てっ。カガリは? なんでキラがそんな恰好をしてるっ!?」
「あの、落ち着いて、アスランッ」
「――――っ、これが落ち着いていられるかっ!!」
「声が大きいよ。今、ちゃんと話すから」
 いつも冷静沈着なアスランにはありえない狼狽ぶりに、キラはかえって冷静になってしまっていた。






 キラの説明を終始黙って聞いていたアスランは、片手で額を覆って最後に深くため息をついた。
「……話は大体わかった。それで、カガリは?」
 キラは首を横に振った。
「わからない。お父さんたちが探してくれてるみたいだけど、家を出てからまったく消息が掴めてないらしくて。キサカさんも探してくれるとは言ってたけど」
「そうか……」
 アスランは徐に携帯電話を出してどこかへ連絡を入れると、通話を切ってキラに顔を向けた。
「ザラ家からも人員を出しておいたよ。多いほうが早く見つかるしね。ただ家を出たのが今朝だと、もうプラントにはいない可能性もあるな。空港に出国記録がないか問い合わせたから、すぐにでも行方がわかるよ。だからキラは安心してて」
「うん、ありがとう」
 アスランがキラを抱き締めて、髪を撫でてくれる。彼の胸に頬を寄せ、彼の匂いを吸い込んで、キラはようやく安堵した。
 ずっと神経が張り詰めていたのだと、今ならわかる。
 アスランがいてくれて良かったと、心から思った。
 不意にアスランの手が頬に触れて顔を上げると、優しく微笑む彼がいて。
 ゆっくりと近付いてくる唇を受け入れようと目を伏せた――そのとき。

「アスラーン、ここなんだけどさぁ」
「ちょっとっ。ノックくらいしてくださいよ、ラスティッ」
 ノックもなしに少し乱暴に開け放たれたドアの音に驚いて、キラとアスランは抱き合ったまま固まった。
 視線を向ければ、驚愕の顔で固まったラスティとニコルの姿。


「おおおお、お前ら、何してんだーっ!」


 ラスティの絶叫が響き渡る。
 幸いにしてニコルがドアを閉めてくれていたことと、部屋が防音だったおかげでその声が漏れることはなかったけれど。
「ちが……これはっ……」
「何が違うんだっ!」
「見損ないましたよ、アスランッ。キラさんというあんなに可愛い恋人がいるのに、それを会えないからって彼女の兄と浮気ですか!?」
 アスランほど頻繁にキラと交流のないラスティとニコルからしてみれば、金髪のかつらと同色のカラーコンタクトをつけたキラをカガリと見間違えるのも仕方のないことだった。
 ましてや、男子校の寮に女のキラがいるはずがないと信じきっている。
「誤解だ」
「どこが誤解だ! 俺はこの目でちゃんと見たんだぞ!!」
 ラスティの隣で腕を組んだニコルが頷く。
「だから誤解だと言っているっ。ここにいるのはカガリじゃなくてキラだっ!」
「はぁぁっ!? ふざけんなよ、アスランッ」
「どこからどう見ても、カガリじゃないですかっ!」
 男三人が白熱する中、キラは彼らの誤解を解くために立ち上がった。
「あの……ごめんなさい。僕、本当にカガリじゃなくてキラなんだ」
 かつらを脱ぎ捨てた途端、ぱさりと現われたチョコレートブラウンの艶やかな長い髪。
 服装も瞳の色もカガリのままなのに、髪が違うだけで雰囲気ががらりと変わり、とてもじゃないがカガリには見えなかった。
「え……まさか……っ」
「キラ……さん……?」
「さっきからそう言ってるだろうが……」
 疲れ果てたようにアスランが呻いた。





「――で、お見合いが嫌でカガリは家出したと?」
「……うん」
「ロクでもねぇな」
 正体をばらしてしまったキラは協力者がいたほうがいいとアスランに言われて、ニコルとラスティに事の顛末を話した。
 事実、アスランは二年生ながら生徒会長も努めていて、生徒会の仕事に長時間拘束されることも多い。その間、キラを一人にさせるわけにもいかず、それならキラを良く知るニコルとラスティにも事情を説明しておいたほうが都合が良かった。
「でも、今学期はまだ体育の授業に水泳がありますよ。どうするんですか?」
「ああ、それはザラ家の主治医に『塩素アレルギーで授業を受けられない』と偽の診断書を書かせるから問題ない」
「それが妥当だな」
 不安でいっぱいだったザフト学園の寮生活がニコルとラスティというアスラン以外の協力者を得て、なんだか楽しくなりそうだとキラは思った。
 基本的に楽天的なキラは、一度吹っ切れるとあまり物事を深く考えない。――長所とも言えるし、短所でもあるのだが。
 探究心が旺盛と言うのか、好奇心が強いと言うのか。とにかく、その性格はキラ独特の複雑なプログラムを作ったり、違法なハッキングを行ったりと随所に見受けられた。

「ニコル、ラスティ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。困ったときはお互いさまです」
「そーそー。それに姫がいればむさ苦しい寮生活も華やぐしな」
「ラスティ、不謹慎だ」
「そぉか? お前だって本当は嬉しいんだろ、アスラン?」
「――それはっ」
「隠すことねぇよ、俺にはわかってるって。でもな、アスラン、俺たちは人間だ。理性だけは失くすなよ?」
 ラスティがアスランの肩に腕を回して揶揄うような笑みを浮かべれば、ニコルも鷹揚に頷いた。
「まぁ、アスランのことですから大丈夫だとは思いますけど、人間はどこでタガが外れるかわからないですからねぇ」
「煩いっ。わかってる!」
 パシッとラスティの手を肩から叩き落して、アスランは不機嫌さを隠さずニコルとラスティを睨み付けた。
 ニコルとラスティが声を上げて笑う中、一人蚊帳の外のキラは男特有の生理現象を理解できず、ただ首を捻るだけだった。



 カガリの逃亡によるいつ終わるとも知れないキラの男子校での生活は、まだ始まったばかり――――。

 

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神里 美羽
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女性
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読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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