それは性別が男でも女でもですが、ニョタせっちゃんの場合は男前の中にも女らしさがあるとよりいいです。
今回の刹那は、男前より女の子らしさが際立っている気がします。
しかも、半獣の設定でロク兄さんが狼です。
刹那は神里的には猫属性だと思っていますが、今回はウサギさんになりました。
ウサギが多産であることと、刹那の赤い目が決定のポイントだったのですが、よくよく調べてみたら、赤い目のウサギのイメージは“アルビノ”と呼ばれる色素欠乏症の個体の多い、ジャパニーズホワイトなる品種からきているそうで、そう言われれば黒目のウサギが多かったかな、と思ってみたり。
でも、今更設定は変えられないので、このまま行っちゃえ! と強行突破しました。
ロックオンは相変わらず刹那にメロメロ(死語)。
王様という設定なので、ヘタレないように気をつけたいと思います。
「ロックオン、どなたにするか決めましたか?」
自分の右腕とも言うべき幼馴染みに問いかけられて、玉座に座る青年は翡翠の双眸を不機嫌そうに細める。
ちらちらとこちらの様子を窺う、重鎮たちの様が鬱陶しいことこの上ないが、それも仕方のないことかと諦めて、手にしていた杯を幼馴染みに押し付けると、青年はゆっくりと重い腰を上げた。
狼王とウサギの花嫁 1
大陸の東にある、ソレスタルの森を治めるのは代々、狼族の仕事だ。
争いごとのない平和なソレスタルの森において、唯一の問題点は森を統治すべき狼族の後継者問題だった。
ソレスタルの森の王は、狼族の長の直系男子から選ばれるのが常だったが、その血統に拘るあまり近親婚を繰り返した結果、長の家系は男子が産まれにくくなっていた。その証拠に直系の男子は現王のロックオンのみで、長の一族とは血縁のない狼族の娘を娶っても子一人生まれないのが現状だった。
しかし、王であるロックオンは、この事態をあまり重く受け止めてはいなかった。
そもそも、ロックオンは即位して四年の間に四人の妾妃を娶っていたが、その誰にも寵愛を傾けることはなかったし、彼女たちを抱いたのは初夜の日、ただ一度だけ。それも、彼女たちが身篭もらないよう、注意を怠らなかった。
なぜなら、望まぬ婚姻の末、愛情の欠片もない夫婦の間に生まれた子など不幸になるだけだ、とロックオン自身の経験で知っているからだ。
母を愛さなかった、父――。
父に愛されたかった、母――。
長の一族の遠縁だった母は、子供のロックオンから見ても美しく芯の強い女性だった。
しかし、先代王は母が数度の性交で身篭もり、男子を出産すると、王族としての役目は果たしたとばかりに母を顧みることはなかった。そして、自身は愛人関係にあった近縁の若い女を妾妃として娶ったのだ。
男子を産み落とし、正妃となった母と父王との関係は完全に冷めていたが、母は正妃として父王を献身的に支え、森の平安に努めた。だが、息子のロックオンや臣下の前では気丈に振る舞っていた母も、きっと誰も知らないところでは涙していたに違いない。
その後、父王はロックオン以外の子供を授かることがなかった。だからといって、父がたった一人の息子を大切に扱ったかと言えば、決してそうではなかった。表向きには大切な跡取りとして、父親のように接してはいても、他人の目の届かないところでは母同様、ロックオンに見向きもしなかった。
そんな父親の姿を見て育ったせいか、ロックオンはかなり幼いころから子を残すためだけの婚姻に嫌悪を抱いていて、自分の子を産ませるのであれば、心底愛し合った女性だけだと決めていた。
そして、その相手は今も尚、ロックオンの目の前に現れてはいない。
だから、後宮にいる四人の妾妃に自分の子を身篭もってもらっては困るのだ。
壇上から降り立ったロックオンは、重鎮たちの厳しい視線に晒されながら、殊更ゆっくりと広間を歩いた。
玉座が置かれた壇上を中心に半円を描くように、狼族以外の各部族から選りすぐりの美女が行儀良く椅子に鎮座している。その誰も彼もがきらきらと瞳を輝かせて、自分の前を通りすぎるロックオンを見つめていた。
しかし、どの女もロックオン自身を見ているわけではない。
彼女たちの目当ては、ロックオンの端正な容姿とそれに付随する地位と名誉。そして、後宮での華やかな生活だ。
まったく、冗談じゃない、と心の裡で悪態をついて、ロックオンは広間の一角で成り行きを見守っている元老院のお歴々を睨み据えた。
子を成すどころか、後宮にさえ通う素振りも見せないロックオンに焦れた元老院は、ロックオンの境遇も何もかもを見抜いた上で、それならば、王自身に自分の伴侶を選んでいただこう、と言い出した。
もし、この場でロックオンの気に入る娘が見つかれば、それでよし。しかし、万が一にも見つからなければ、今いる四人の妾妃の誰かに子を産ませることが条件で、だ。
各部族から花嫁候補を招集したのは、ロックオンの選択の範囲を広げるためでもあり、また、濃くなりすぎた長一族の血を正常化させるためでもあった。
集団見合いの場と化した大広間には、コツコツとロックオンの歩く靴音だけが響く。
狼族の血を引く男子を産み落とせば、正妃の座も夢ではないと、目を血走らせている女たちを見てしまっては、例えどんなに美しかろうが食指など動くはずがない。
ロックオンはげんなりとしながら、その光景にため息をつく。
しかし、そのため息も次の瞬間には断ち消える。
二十数名の女たちは、どれも部族の長や有力者の娘だとあらかじめ聞いていた。そのため、彼女たちは自分を補佐するための侍女を従えていた。
ロックオンはその中の一人――白く長い耳を持つ、兎族の美しい娘ではなく、彼女の侍女に目を奪われたのだ。
(――黒ウサギ?)
黒兎の一族は、大陸の南にあるAEUの森に多く生息していると聞く。
種族に拘わらず、その門を広く開けているソレスタルの森でも見かけないことはないが、大変に珍しい。
艶やかな黒髪をこちらに向けて、深く頭を垂れているせいで、その顔を窺うことはできないが、体格から推測するにたぶん少女と言われる年齢であることはわかった。
いきなり歩みを止めた王に、兎族の娘は歓喜して顔を輝かせるが、その姿は今のロックオンの視界にさえ入りはしない。
「……君」
無様なほど緊張して声が掠れる。こんな経験は、戴冠式のときでさえなかったことだ。
何がこれほどまでにロックオンを駆り立てるのかはわからない。強いて言うなら、直感ともいえるロックオンの本能が、この少女だと告げていた。
しかし、少女をもっと間近で見たいと足を動かそうとしたそのとき、ロックオンの視界を何かが遮った。
「陛下っ」
――兎族の娘だった。
少女と言うには大人びていて、しかし、成熟した女性よりははるかに幼く美しい容貌。白く長い耳を立てたその顔が、満面の笑みを称えている。
王の目に止まったと明らかに勘違いしているらしい彼女に、ロックオンは眉根を寄せた。
「あー……悪い。用があるのはアンタじゃないんだよね」
女性には優しく、という母親の躾の賜か、フェミニストと称されることの多いロックオンにしては珍しく苛立ちを含んだ声音で告げて、兎族の娘を押し退ける。
早くしないと、逃げられてしまう。
呆気にとられた娘にさえ、罪悪感を抱かぬほどの焦燥に駆られ、ロックオンは少女に近付いた。そして、周囲のざわめきも気にせず、少女の前に片膝を突いて跪く。
すると、少女は自分の前に影ができたことに驚いた様子で顔を上げた。
緋色の瞳に自分の姿が映し出された瞬間、ロックオンは心臓を鷲掴みされたような衝撃を受けた。
小麦色の肌、意志の強さを思わせる緋色の瞳、高くはないが筋の通った鼻梁。そして、桃色に色づいた柔らかそうな唇と、まだ幼さを残すふっくらとした頬。
すべてがロックオンを魅了した。
「名前は?」
やや興奮気味に問えば、少女は大きな瞳を瞬かせる。
「……刹那」
「刹那、か――。いい名前だ」
ロックオンは少女の小さな手を取って、立ち上がらせた。そして、声高に宣言する。
「決めたっ。この子を俺の正妃として迎える!」
広間を走り抜けたどよめきは聞かない振りをして、ロックオンは少女――刹那の手を握ったまま、不安げに瞳を揺らした彼女に微笑んだのだった。
「――まったく、貴方という人は……」
「悪かったって、アレルヤ」
ロックオンは言葉ほど悪びれず、ご機嫌で幼馴染みを出迎えた。
ソレスタルの森の王が花嫁候補者でない、予定外の少女を相手に“正妃”宣言をしたのは数時間前のことだ。
小さな怒りと大きな呆れを滲ませたアレルヤが元老院や各部族の長への説得に当たっている間、ロックオンは執務室の机に向かって仕事に勤(いそ)しんでいた。
これが片付けば、刹那と名乗ったあの少女と就寝時間までのひとときを過ごせるのかと思うと、仕事のペースも速くなるし、自然と頬も緩んでしまう。それがまた、アレルヤを呆れさせるのだが、今のロックオンにはどうでもいいことだった。
「部族長はともかく、元老院はかなり怒り心頭みたいですよ」
アレルヤの言葉に、ロックオンは肩眉を上げておどけてみせる。
「構わないさ、言わせておけばいい。これから先、俺が刹那以外の女に愛情を傾けることなんてありえないんだから」
“正妃”の条件は、王の血を引く狼族の男子を生むことにある。
例え、混血した場合でも、狼族の血は優性遺伝であるから、異種族からでも狼族の子が生まれる確率は高い。
それを踏まえた上で、ロックオンが刹那を“正妃”にすると宣言したということは、つまり、もう彼女以外は抱かない。ひいては、彼女だけが王の精を受け、男子を生むことを許された存在となる。
と言うことは、必然的に刹那をロックオンの伴侶――正妃と認めざるを得ないのだ。
「それから、彼女の部屋は指示通り、内殿の貴方の寝室の隣にしておきました。扉の前とバルコニーの下に、僕の部下を配置しています。ついでに仕立屋も呼んでおきましたから」
「おおっ、さすがアレルヤ。優秀な臣下を持って、俺は幸せだぜ」
「この森の王妃となる方に、使用人の服を着せておくわけにはいきませんからね」
ロックオンは頬杖を突いて、ペンをクルリと回した。
「まぁ、あれはあれで可愛いけどな」
刹那の姿を思い出し、にやにやと相好を崩したロックオンを冷めた目で見つめたアレルヤは、気を取り直すように咳払いした。
「とにかく、その脂下がった顔をどうにかしてください! ロックオンがそれでは、彼女への風当たりが強くなるだけですよ」
花嫁候補者ではない刹那は覚悟があって嫁ぐわけではない。ただでさえ不安であるはずなのに、身に覚えのない悪意を向けられるのは可哀想だ、とアレルヤが言う。
「僕は貴方の選択に間違いはないと思っています。しかし、ただの臣下である僕ができることはあまりに小さい。あの少女を守ってやれるだけの力はありません。それができるは、」
「わかってるって。……最近のお前、説教じみたとこが親父さんに似てきたんじゃないか? ――と、おーわりっ」
ロックオンは最後の書類にサインをして、ペンを元の場所へ戻すと、アレルヤを見つめてニヤリと口角を上げる。
「刹那のことは、俺が命に代えても守ってみせるさ」
陰謀渦巻く王宮に無理矢理引っ張り込んだのは他でもない、ロックオンだ。
後宮にいる四人の妾妃は灰汁が強く、元老院も食わせ者が多い。
しかし、ロックオンは刹那の瞳を見た瞬間、その彼らを敵に回してでも、彼女が欲しいと思った。彼女だけは、ソレスタルの森の王としてではなく、ロックオン個人を見てくれる気がした。
だから、その彼女がロックオンの傍にあり続けるためなら、いくらでも守る覚悟はある。
そして、絶対に手放しはしない。
アレルヤが小さく息を呑む気配がして、ロックオンは研ぎ澄まされた牙のような怜悧な眼差しをまぶたの裏に隠した。
「んじゃ、刹那の様子でも見てくるかぁ」
んー、と伸びをした王の表情はいつもの穏やかさを取り戻していて、あからさまに安堵するアレルヤに苦笑しながら、ロックオンは愛しい刹那との逢瀬に心を躍らせたのだった。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。