ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
2009/10/29 (Thu)
Eternal Snow 1
パーティは苦手だ。
なまじ、自分の容姿とバックグラウンドに自覚があるせいか、群がってくる女性達の相手をするのも鬱陶しい。会場に入ってから今まで、顔に愛想笑いを貼り付けていたおかげで、頬の筋肉が擦り切れかけている。
アスランは今日の主役である幼馴染みの少女に挨拶を済ませたのを理由に、パーティ会場から抜け出し、首を締め付けるネクタイを外し、無造作にポケットに突っ込む。
しかし、さすがにこんな早い時間に帰宅するのも憚られて、アスランも頻繁に利用しているホテルの中をウロウロしていると、温かい季節になればむせ返るようなバラの香りに包まれるホテルの庭園に佇む一人の少女の姿を視界に捉えた。
東洋のある国の民族衣装――確か『着物』と言ったか――を身に着けた少女が、ちらちらと雪が舞うその場所で、傘も差さずに熱心に夜空を見つめている。
時折少女の口元から白い息が零れるのが遠目からでもわかって、アスランは思わず声を掛けていた。
「何、してるの?」
結い上げられたチョコレートブラウンの髪をさらりと揺らして、振り返る少女の顔を目にした瞬間、アスランは呼吸を忘れるほど息を詰めた。
(――か、可愛い……)
透けるような白い肌は寒さにほんのりと紅潮し、今にも零れ落ちるのではないかと思うほど大きな紫水晶の瞳がアスランを見つめ返す。
立ち姿も美しく、きちんとした教育を受けた、自分と同じ世界の人間だと一目で確信した。
育ってきた環境のせいか、綺麗で華やかな女性を見る機会の多かったアスランだが、少女の穢れを知らない清らかな雰囲気に――それこそ、アスランが今まで出遭った女性達とは一線を画す存在に、アスランは初めて言葉を失うほど動揺した。
「雪を」
少女の、ぽってりとしたさくらんぼのような唇が開かれた。
甘いアルトの声音が、アスランの耳に届く。
「雪……?」
少女はこくりと頷いた。
「ぼ…ワタシの国では雪が降らないので」
珍しくてつい、と少女は花が綻ぶように微笑んで。
――――どきん、と心臓が高鳴る。
急激に熱を持ち始めた顔を隠すように、慌てて顔を背けた。
彼女のあまりに綺麗な笑顔に、不覚にもときめいてしまった。
偏見と言われればそうなのかもしれないが、アスランの中の“女性”という生き物に対するイメージは『醜悪』だった。――容姿のことではなく、性格が、という意味で。
世の中のすべての女性がそうだとは思わないけれど、彼の育ってきた環境はある意味特別だったから、そう思うのも仕方のないことだった。
アスランの父親は『ザラグループ』の会長で、子どもはアスラン一人だけ。必然的に将来、父の跡を継ぐことは決っていた。
幼い頃からアスランの周りにいる人間は、いわゆる『上流階級』といわれる階層で、彼に近付いてくる女も綺麗で華やかだった。そんな彼女らの目的は、見目麗しいアスランと彼が将来得るであろう地位や財産だった。
まだ何の力も持たない親の脛をかじって生きているアスランに、鼻が捩れるほどきつい香水の匂いを振り撒いて、煌びやかなドレスを翻し、媚びるような笑みを浮かべながら、どうにか取り入ろうとするその姿は醜悪以外の何者でもなかった。
たぶん、『女性不信』になっていたのだと思う。親しい同性の友人達が次々と恋人を得て、初体験を済ませていく中、そんな気分さえ微塵も起きなかったことがその証拠だろう。
だから、久しぶり――否、初めて見る純粋で綺麗な笑顔に、柄にもなく心をときめかせたのだ。
欲望と打算に満ち溢れ、いつの間にか見るものすべて無色になっていたアスランの世界が、急速に色付いていく気がした。
「で、でも、そんな恰好で外にいたら、寒いだろう? あそこからでも雪は十分見えるはずだよ」
赤くなった顔を誤魔化すように、ロビーのラウンジを指差す。
少女は無言まま、こくりと頷いたのだった。
アスランはラウンジの一角に少女を座らせると、自分もその前の席に腰を降ろした。そして、飽きるでもなく、ずっと外を眺めている少女の横顔を見つめる。「綺麗だ」と胸の内で呟いたはず言葉は、知らず、声になって零れていた。
「え?」
アスランは、ハッと我に帰った。
「あ、いや…、その、君の着ている衣装が綺麗だと思って」
なんともわざとらしい誤魔化し方だと我ながら情けなく思いつつ、少女を覗う。
少女は数回瞬きした後、ふわりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
少女が鈍くて助かった、とアスランは内心の冷や汗を拭った。
「これ、一番お気に入りの振袖なんです」
少女は長い袖を持ち上げて、アスランにその模様を見せた。
白地で、裾と袖の一部が淡い紫で染められ、川に浮かぶ桜が描かれたそれは、少女にとても良く似合っていた。
「フリソデ? それは『着物』じゃないの?」
「振袖は着物の一種なんです。ほら、スーツだっていろいろな種類があるでしょう?」
彼女の話では、『着物』は日本古来の民族衣装で、中でも『振袖』という袖の長い着物は未婚の女性が着用するものらしい。
そう言われて、アスランはふと思い出した。昔、どこかのパーティで友人の母親が着ていた着物は、確かに袖が短かった。
「それにしても、着物なんて良くご存知でしたね」
話の途中で運ばれてきた紅茶に口をつけ、美味しいと少女は顔を綻ばせた。
「いろいろなパーティに出席してると、着物を着てる人もそう珍しくはないからね」
「そうですね」
そこで会話は途切れた。
少女はカップをソーサーに戻して、再び雪の舞い落ちる暗い空を見上げる。
少女の瞳が自分を映さなくなったことに寂しさを感じながら、また少女の興味を惹くための会話を模索する。しかし、『秀才』と謳われた頭脳はこんなときに役にも立たなかった。
「――プラントはいいですね、雪が降って。オーブには四季がないから」
「そうかな。俺はオーブの温暖な気候のほうが羨ましいけど」
またもや少女にお株を奪われながら、少女が『オーブの出身者だ』という新たな情報を手に入れて、アスランは喜んだ。が、一番重要な情報をまだ聞いていないと気付く。
「あの、さ…。君の、」
躊躇いがちに名前を尋ねようとしたその瞬間、携帯電話の着信音が鳴り響く。
「あ、ごめんなさい」
少女が慌てたようにバッグから携帯電話を取り出し、席を立つ。
少し離れた場所で二言三言会話をして、少女はアスランの許に戻ってきた。
しかし、少女は椅子に置いてあったバッグを掴むと、席に座ることなく、アスランに頭を下げた。
「あの、ごめんさない。ぼ…ワタシ、もう帰らないといけなくて」
「え、もぉ!?」
「はい、あまり遅くなると兄が煩いんです」
遅いとはいっても、まだ九時にも満たない時間である。どれだけ過保護な兄だと内心舌打ちしながらも、この少女くらい可愛い妹ならば仕方がないと納得する。
そして、「ごめんなさい」と泣きそうな顔で頭を下げるものだから、無理に引き止めることもできなくて。
アスランは何度も頭を下げながらエントランスに向かう少女を、手を振って見送った。
結局、少女の名前を聞きそびれてしまった。しかも、アスランも名前を名乗り忘れてしまった。
エントランスで黒塗りのベンツの後部座席に乗り込む少女の姿を見つめながら、アスランはすっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけ、顔を顰める。いつもと変わらないはずのコーヒーを、初めて苦いと感じた。
Substitution Panic番外編、アスキラが恋人になるまでのお話です。
二月の真っ白な雪が舞い落ちるあの庭園で、俺は天使に出逢った――――。
二月の真っ白な雪が舞い落ちるあの庭園で、俺は天使に出逢った――――。
Eternal Snow 1
パーティは苦手だ。
なまじ、自分の容姿とバックグラウンドに自覚があるせいか、群がってくる女性達の相手をするのも鬱陶しい。会場に入ってから今まで、顔に愛想笑いを貼り付けていたおかげで、頬の筋肉が擦り切れかけている。
アスランは今日の主役である幼馴染みの少女に挨拶を済ませたのを理由に、パーティ会場から抜け出し、首を締め付けるネクタイを外し、無造作にポケットに突っ込む。
しかし、さすがにこんな早い時間に帰宅するのも憚られて、アスランも頻繁に利用しているホテルの中をウロウロしていると、温かい季節になればむせ返るようなバラの香りに包まれるホテルの庭園に佇む一人の少女の姿を視界に捉えた。
東洋のある国の民族衣装――確か『着物』と言ったか――を身に着けた少女が、ちらちらと雪が舞うその場所で、傘も差さずに熱心に夜空を見つめている。
時折少女の口元から白い息が零れるのが遠目からでもわかって、アスランは思わず声を掛けていた。
「何、してるの?」
結い上げられたチョコレートブラウンの髪をさらりと揺らして、振り返る少女の顔を目にした瞬間、アスランは呼吸を忘れるほど息を詰めた。
(――か、可愛い……)
透けるような白い肌は寒さにほんのりと紅潮し、今にも零れ落ちるのではないかと思うほど大きな紫水晶の瞳がアスランを見つめ返す。
立ち姿も美しく、きちんとした教育を受けた、自分と同じ世界の人間だと一目で確信した。
育ってきた環境のせいか、綺麗で華やかな女性を見る機会の多かったアスランだが、少女の穢れを知らない清らかな雰囲気に――それこそ、アスランが今まで出遭った女性達とは一線を画す存在に、アスランは初めて言葉を失うほど動揺した。
「雪を」
少女の、ぽってりとしたさくらんぼのような唇が開かれた。
甘いアルトの声音が、アスランの耳に届く。
「雪……?」
少女はこくりと頷いた。
「ぼ…ワタシの国では雪が降らないので」
珍しくてつい、と少女は花が綻ぶように微笑んで。
――――どきん、と心臓が高鳴る。
急激に熱を持ち始めた顔を隠すように、慌てて顔を背けた。
彼女のあまりに綺麗な笑顔に、不覚にもときめいてしまった。
偏見と言われればそうなのかもしれないが、アスランの中の“女性”という生き物に対するイメージは『醜悪』だった。――容姿のことではなく、性格が、という意味で。
世の中のすべての女性がそうだとは思わないけれど、彼の育ってきた環境はある意味特別だったから、そう思うのも仕方のないことだった。
アスランの父親は『ザラグループ』の会長で、子どもはアスラン一人だけ。必然的に将来、父の跡を継ぐことは決っていた。
幼い頃からアスランの周りにいる人間は、いわゆる『上流階級』といわれる階層で、彼に近付いてくる女も綺麗で華やかだった。そんな彼女らの目的は、見目麗しいアスランと彼が将来得るであろう地位や財産だった。
まだ何の力も持たない親の脛をかじって生きているアスランに、鼻が捩れるほどきつい香水の匂いを振り撒いて、煌びやかなドレスを翻し、媚びるような笑みを浮かべながら、どうにか取り入ろうとするその姿は醜悪以外の何者でもなかった。
たぶん、『女性不信』になっていたのだと思う。親しい同性の友人達が次々と恋人を得て、初体験を済ませていく中、そんな気分さえ微塵も起きなかったことがその証拠だろう。
だから、久しぶり――否、初めて見る純粋で綺麗な笑顔に、柄にもなく心をときめかせたのだ。
欲望と打算に満ち溢れ、いつの間にか見るものすべて無色になっていたアスランの世界が、急速に色付いていく気がした。
「で、でも、そんな恰好で外にいたら、寒いだろう? あそこからでも雪は十分見えるはずだよ」
赤くなった顔を誤魔化すように、ロビーのラウンジを指差す。
少女は無言まま、こくりと頷いたのだった。
アスランはラウンジの一角に少女を座らせると、自分もその前の席に腰を降ろした。そして、飽きるでもなく、ずっと外を眺めている少女の横顔を見つめる。「綺麗だ」と胸の内で呟いたはず言葉は、知らず、声になって零れていた。
「え?」
アスランは、ハッと我に帰った。
「あ、いや…、その、君の着ている衣装が綺麗だと思って」
なんともわざとらしい誤魔化し方だと我ながら情けなく思いつつ、少女を覗う。
少女は数回瞬きした後、ふわりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
少女が鈍くて助かった、とアスランは内心の冷や汗を拭った。
「これ、一番お気に入りの振袖なんです」
少女は長い袖を持ち上げて、アスランにその模様を見せた。
白地で、裾と袖の一部が淡い紫で染められ、川に浮かぶ桜が描かれたそれは、少女にとても良く似合っていた。
「フリソデ? それは『着物』じゃないの?」
「振袖は着物の一種なんです。ほら、スーツだっていろいろな種類があるでしょう?」
彼女の話では、『着物』は日本古来の民族衣装で、中でも『振袖』という袖の長い着物は未婚の女性が着用するものらしい。
そう言われて、アスランはふと思い出した。昔、どこかのパーティで友人の母親が着ていた着物は、確かに袖が短かった。
「それにしても、着物なんて良くご存知でしたね」
話の途中で運ばれてきた紅茶に口をつけ、美味しいと少女は顔を綻ばせた。
「いろいろなパーティに出席してると、着物を着てる人もそう珍しくはないからね」
「そうですね」
そこで会話は途切れた。
少女はカップをソーサーに戻して、再び雪の舞い落ちる暗い空を見上げる。
少女の瞳が自分を映さなくなったことに寂しさを感じながら、また少女の興味を惹くための会話を模索する。しかし、『秀才』と謳われた頭脳はこんなときに役にも立たなかった。
「――プラントはいいですね、雪が降って。オーブには四季がないから」
「そうかな。俺はオーブの温暖な気候のほうが羨ましいけど」
またもや少女にお株を奪われながら、少女が『オーブの出身者だ』という新たな情報を手に入れて、アスランは喜んだ。が、一番重要な情報をまだ聞いていないと気付く。
「あの、さ…。君の、」
躊躇いがちに名前を尋ねようとしたその瞬間、携帯電話の着信音が鳴り響く。
「あ、ごめんなさい」
少女が慌てたようにバッグから携帯電話を取り出し、席を立つ。
少し離れた場所で二言三言会話をして、少女はアスランの許に戻ってきた。
しかし、少女は椅子に置いてあったバッグを掴むと、席に座ることなく、アスランに頭を下げた。
「あの、ごめんさない。ぼ…ワタシ、もう帰らないといけなくて」
「え、もぉ!?」
「はい、あまり遅くなると兄が煩いんです」
遅いとはいっても、まだ九時にも満たない時間である。どれだけ過保護な兄だと内心舌打ちしながらも、この少女くらい可愛い妹ならば仕方がないと納得する。
そして、「ごめんなさい」と泣きそうな顔で頭を下げるものだから、無理に引き止めることもできなくて。
アスランは何度も頭を下げながらエントランスに向かう少女を、手を振って見送った。
結局、少女の名前を聞きそびれてしまった。しかも、アスランも名前を名乗り忘れてしまった。
エントランスで黒塗りのベンツの後部座席に乗り込む少女の姿を見つめながら、アスランはすっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけ、顔を顰める。いつもと変わらないはずのコーヒーを、初めて苦いと感じた。
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神里 美羽
性別:
女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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