忍者ブログ
ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
[44] [43] [42] [41] [40] [39] [38] [37] [36] [35] [34
2025/05/25 (Sun)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009/10/29 (Thu)
・アスキラ♀短編に掲載されている、【独占禁止法】の番外編。
・アスキラが恋人になるまでです。





恋までの距離





「おーい、アスラン。これ、今日のメニューな」

 形だけのノックの後、返事も待たずに入室してきた男をアスランは睨んだ。男は意も介さず、持っていた書類をひらひらと振ると、アスランの机の上にぽんっと放り投げた。
 貴重な昼休み時間。
 英語準備室には、アスラン以外の人影はない。
 アスランは引切り無しに訪れる女子生徒の対応に追われ、やっとのことで遅めの昼食にありつけたのだ。
「俺はもう生徒じゃないんですから、名前で呼ぶのは止めてくれませんか、フラガ先生?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。んな細かいこと、気にすんなって。お、この卵焼き、うまそーっ」
「あ、ちょっと!」
 男――ムゥ・ラ・フラガはアスランが広げた弁当を目敏く見つけて、ふわふわの卵焼きを摘むと自分の口の中へ放り込んだ。
「んー、うまいっ」
 アスランは上司のおかげで一品減ってしまった弁当を、呆然と眺めた。

 フラガはアスランがまだザラ学園高等部の生徒だった頃に、陸上部の副顧問を務めていた教師だった。学生時代は、走り幅跳びで世界を狙える位置までいたのだが、膝の故障のために夢を断念し、後身を育てるために教師になったのだという。現在は顧問となり、副顧問のアスランにしてみれば上司に当たる人物だ。

「いやぁ、羨ましいねぇ。愛妻弁当」
「そんなに羨ましいなら、さっさと結婚すればいいじゃないですか。ラミアス先生と」
 料理上手な最愛の妻が甘さ控えめに作ってくれる卵焼きは、アスランの好物でもあった。なのに、隣に座る男はそれを平然と食べてくれた。
 アスランはこれ以上食べられてなるものかと、猛然と胃の中に収める。弁当を味わう余裕などない。フラガにきつく当たってしまうのは、当然だった。
「んー、俺もそうしたいのは山々なんだけどね。あいつ、今、三年生受け持ってるだろ? 卒業するまでは何かと忙しいからなぁ」
 「あーあ、こんなことならさっさと結婚しときゃ良かった」と悔しがるフラガを尻目に、アスランはコーヒーを啜った。

「でも、驚いたね。お前が学生結婚するなんて。ここの生徒だった頃は『女なんて全然興味ありません』みたいなすかした顔してたくせに。『百人切り』だっけ? いまだに残ってるお前の伝説。その指輪だって、女避けのために付けてるんだと疑ってる奴はまだいるからな」
「止めてください。『百人切り』なんて大袈裟ですよ」
 にやにやと笑うフラガに、アスランは苦笑で返した。
 百人とはオーバーな数だが、それが本当だと信じられるほどアスランは異常にモテた。あの頃のアスランは陸上以外に興味を持てなかったから、告白してくる女子生徒をばっさばっさと切り捨てた。
 得てして、モテすぎる男は同性に嫌われる。アスランもまた例外ではなく、特にすました顔が反感を招き、嫉妬に駆られた口さがない一部の男子生徒の広めた噂が真実として語り継がれた。アスラン本人にとってみれば、不名誉極まりない伝説だった。
「俺みたいに怪我をしたわけでもないのに、実業団からの誘いを断って、教師になるって聞いたときは何考えてんだと思ったけど。それくらい大切なんだな、嫁さんが」
「そうですね。何よりも誰よりも愛してますよ、彼女を。夢にまで見た世界の舞台を捨ててもいいと思えるくらい」
 左手の薬指に嵌った愛の証に触れ、アスランは蕩けるような笑みを浮かべた。

 アスランは陸上を捨てることに何の迷いもなかった。天秤に掛けることすらしなかった。
 選手を引退すると言ったとき、彼女はひどく驚いて、必死にアスランを思い留まらせようとした。だが、アスランは彼女の言葉に耳を貸そうとはしなかった。
 選手として陸上を続ければ、アスランの生活はそれを中心に回っていくことになる。きっと我慢強い彼女のことだから、寂しさを押し隠して、アスランを送り出してくれるだろう。アスランはそれが嫌だった。
 結婚して、自分の妻となった彼女を悲しませてまで陸上に拘る気持ちはなかったのだ。

「あー……お前の惚気話だけで腹がいっぱいになりそうだ。でもまぁ、その気持ちはわからないでもないな、あんだけ可愛い幼妻なら」
「――は!?」
 フラガの核心を突く発言に、アスランの体が強張る。
「『キラ・ヤマト』だろ? お前の嫁さん。気が付かないとでも思ったのか? お前は俺の元教え子で、キラは今の教え子だぞ。一年前からキラが大事そうに首に下げてる指輪とお前のそれが同じデザインだってことくらいとっくに知ってたよ」
 普段、やる気があるのかないのか、飄々とした彼がまさか指輪のデザインに気付くとは思ってもみなかったアスランである。「俺は結構目敏いんだよ」と笑うフラガを、アスランは目を丸くして見つめた。
「え……っと…それは……」
「大丈夫だよ。気付いてるのは俺くらいのもんだ。黙ってろって言うなら、キラが卒業するまでずっと黙っててやるさ」
 アスランはほっと安堵のため息をついた。
 ザラ学園は当然のことながら父親が理事長を務める学校であるから、このことが公になってもアスランにはまったく問題なかったのだが、伴侶であるキラが断固としてこれを譲らなかった。
 二人の間には六歳の年齢差があり、現在キラはこの学園の二学年に在学している。
 キラの十六歳の誕生日に入籍した当時、事情を知るアスランの友人から『淫行罪だ』と揶揄われたのをいまだに引き摺り、アスランが周囲から白い目で見られないように気を使っているらしいのだ。
 アスランにしてみれば言いたい奴には言わせておけという心境で、『白百合姫』と呼ばれ、無自覚にモテるキラにいつも危機感を覚えていた。いっそアスランのものだと宣言すれば、キラに懸想する不埒な輩も減るだろうと考えずにはいられない。
「すみません、よろしくお願いします」
 自分の考えはどうであれ、キラが嫌だということを強制するわけにはいかず、アスランはフラガに頭を下げた。
「いやいや、気にするなって。――でも、『幼妻』ねぇ……。なかなか、いい響きだ」
 心底羨ましそうに腕を組んで頷いてるフラガに、アスランは不快も顕わに眉根を寄せた。
「俺の妻に対して、卑猥な表現をするのはやめてください」
「卑猥って……。事実だろうが」
「事実であっても、です。俺は一般的にいう男のロマンのためにキラと結婚したわけじゃないんですから」
 『幼妻』発言も淫行罪同様、友人から揶揄われた言葉だった。
 そんな幼稚な思想でキラと結婚したわけじゃない。
 キラを愛しいと思う愛情の裏側にある、歪んだ執着心と醜い独占欲がアスランを結婚へと踏み切らせた。
「それじゃ、惚気ついでに聞かせくれよ」
「え、」
「お前とキラの馴れ初め」
 一瞬呆けたアスランは、ふわりと照れ笑いを浮かべた。
「聞いて楽しい話でもないと思いますけど……」
 結婚指輪を見つめ、同じ校舎にいるであろう愛しい妻に想いを馳せた後、アスランはとつとつと二人の結婚までの経緯を話し始めた。

 

拍手[6回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:



1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
■ カレンダー ■
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
■ カウンター ■
■ 最新記事 ■
■ 最新コメント ■
[12/15 うさチ]
■ 最新トラックバック ■
■ プロフィール ■
HN:
神里 美羽
性別:
女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
■ バーコード ■
■ ブログ内検索 ■
■ P R ■
Designed by TKTK
PHOTO by Metera
忍者ブログ [PR]