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ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
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2009/10/29 (Thu)
恋までの距離 2





「ハイネ先生に言われたとおりにしたら、今日は跳べたんです」
 面白くない、とアスランは思った。
 久しぶりに家族全員が揃った夕飯の席で、向かいに座る少女が燥ぐほど、機嫌が降下していく。
 少女が煩いとか騒がしいとか、そんな理由ではない。
 今までアスランが当たり前のように受けてきた少女からの賛美を、他人が受けているのが気に入らなかった。
「ずっと憧れてたから、教育実習で中等部に来たときはビックリしたけど、でも、思ってたとおり、優しい人でした。明日は跳躍を見せてくれるって、約束してくれたんです」
「そうか。キラちゃんは、そんなにハイネくんのファンだったのか。言ってくれれば、小父さんが会わせてあげたのに」
「それじゃあ、意味がないんです。実力で追いつかないと」
 視界の隅で少女が気合いを入れるのを見ながら、アスランは黙々と箸を進めた。



 


 隣に住む六つ年下の少女――キラが、ザラ家に住まうようになったのは、今年の春のこと。
 キラの両親が海外に転勤することが決り、学校のこともあって、キラ一人が残ることになったからだ。
 キラを溺愛する彼女の父親は大反対だったのだが、何事にも大らかな母親はキラの自立のためだとあっさり了承。ただ、女の子の一人暮らしは物騒だからと、昔からキラを娘のように可愛がっていた――実は、娘が欲しかったらしい――アスランの両親が面倒を引き受けたのだ。
 しかし、ザラ学園の理事長を務める父・パトリックと農学博士である母・レノアは、非常に多忙な人たちだった。キラ可愛さに面倒を見ると安請け合いしたはいいが、二人が家に帰宅するのが稀であるのだから、結局、一人暮らしと何ら変わらない。
 そこで、白羽の矢が立ったのが、大学進学と同時に一人暮らしを始めたアスランだった。
 レノアにヤクザ紛いの脅迫を仕掛けられたアスランは、実家へ戻る羽目になってしまった。しかも、キラには手を出すなとご丁寧にも忠告つきで。

 母親の綺麗な容姿を受け継いだアスランは、異常なくらいモテた。それはもう、黙っていても女のほうから近寄ってくるほどで。
 だから、中学生に手を出すほど女性には不自由していないと言い返したら、キラのどこが不満なのかと逆に怒鳴られた。
 一体、手を出してほしいのか、そうではないのか、理解に苦しむところである。

 それはそれとして、とにかく両親が揃うことは本当に珍しく、殆どキラとの二人暮らしと言っても過言ではなかった。しかし、十五年もの間、兄妹のように過ごした少女に今更不埒な想いを抱くはずもなく、アスランはキラと二人の生活に結構満足していた。
 自分に懐いてくるキラはやはり可愛いし、彼女の母親が料理上手なせいか、食事も美味しい。

 だが、敵は思わぬところから現われるものである。
 幼い頃から、キラの尊敬する人と言えばアスランだったはずなのに、その対象は別の人間に移ろうとしていた。

 アスランの一つ上にあたるハイネ・ヴェステンフルスは、キラと同じ走り高跳びの選手だ。アスランと種目こそ違うが、ザラ学園の中等部のときから一緒で、累計すればもう七年もの付き合いになる。インカレでは二年連続で優勝もしていて、全日本の強化選手にも選ばれていた。
 だから、その彼からザラ学園中等部で教育実習を受けるのだと聞いたときには、思わず頭でもおかしくなったのかと疑った。数々の有名な陸上選手を抱える『ザフトシステムズ』にハイネの就職が内定していることを知っていたからだ。
 理由を問い質せば、選手引退後はまだ誰の手にも染まっていない選手を、自分で発掘して育てたいのだと言って、彼は笑った。
 それは正しく、中学時代の恩師であるユーレン・ヒビキの生き方だった。
 選手としては二流だったユーレンは指導者としては一流で、アスランもハイネも彼がいなければ、きっと陸上を続けていなかったに違いない。二年前、惜しくもユーレンは不慮の事故で亡くなったが、ハイネは彼の遺志を継ごうとしているらしい。そして、ユーレンが最後に目を付けた逸材がいると聞きつけて、ハイネは中等部の教育実習を受けることを決意したようだ。――それこそがキラだった。


「お兄ちゃん、料理が口に合わなかった?」
 突然、声を掛けられて視線を上げれば、表情を曇らせたキラが目に入る。
 この家で暮らすようになって以来、キラは誰に頼まれるのでもなく、自主的にザラ家の食生活を預かるポジションに就いていた。
「あ……いや、そんなことないよ」
 アスランは慌てて否定した。
 両親の刺すような視線が痛い。
「そぉ? ならいいけど……。ここに皺がよってるから、おいしくないのかと思って」
 キラが眉間を指差し、アスランの真似なのか皺をよせる。
「キラちゃん、気にしないで。この子、昔からそういう顔だから」
 実の息子に対する言葉ではない。
 アスランはレノアを恨めしげに睨み、まだ心配そうなキラに笑顔を向ける。
「ごめんね。少し考え事してて、ボーッとしてたみたいだ」
「……本当に?」
「うん。キラの料理はすごく美味しいよ」
 キラの料理はいつもと変わらず美味しいし、考え事をしていたのも嘘ではないから、安心させるためにそう言えば、キラは安堵するようにため息をついて微笑んだ。
「よかったぁ……」
 アスランの後を付いて回っていたあの頃と変わらない邪気のない笑顔に、アスランの心臓がチクリと痛む。

 ――憧れの彼にも、こんな笑顔を見せているのだろうか……。










 それから数日は、何事もなく過ぎた。相変わらず、キラはハイネの話題を口にしたけれど、アスランはただ相槌を打つだけだった。

 しかし、変化は急に訪れる――。



 その日、大学からの帰宅途中に突然降り出した雨は、家に着く頃には激しくなっていた。車庫から家の玄関の数メートルの距離でさえ、アスランの服は大量の雨を吸い込んだ。
 玄関で濡れた前髪をかき上げたアスランは、玄関に揃えられたローファーを見つけた。
(キラ、帰ってるのか?)
 今日は学校帰りに友達と買い物をすると言っていたから、もっと遅くなるものだと思っていたのに。
 キラの靴を眺めながら、暫らく物思いに耽っていたアスランは寒さにブルッと体を震わせた。
「……取り敢えず、風呂」
 濡れたジャケットを脱いで、玄関を上がる。
 そして、廊下の途中にある脱衣所のドアを開けて――凍りついた。

(え……)

 思春期の少女らしい、水色のショーツを身に着けたキラが立っていた。
 さくら色に上気した肢体は、今、風呂から出てきたことを物語っていて。キラもアスラン同様、ショーツと同色のブラジャーを手に固まっている。
 括れたウエスト、引き締まったヒップ、そして、瑞々しい白い肌と成長途中の乳房に視線が釘付けになる。
 アスランは我知らず、唾を呑み込んだ。
 薄紅色に染まった体はどこか色気さえ含んでいて、男の劣情を誘うには十分だった。
「キ、」
 初めに声を発したのは、キラだった。
「キ……?」
「キャアァァアァ!!」
 投げ付けられたバスタオルが顔面に当たって、アスランは正気を取り戻した。
「ご、ごめん!」
 慌ててドアを閉める。
 心臓がバクバクと騒がしいくらい音を立てる。
 そして、火が出るかと思うほど熱を持った顔を隠すように、その場にしゃがみ込んだ。

「――何やってんだよ、俺……」
 この大雨だ。
 車で通学しているアスランでさえこれなのだから、徒歩通学のキラが濡れないはずがない。キラの靴を玄関で見かけたときに気付くべきだったのだ。

 昨日までまだ子どもだと思っていた少女は、アスランの考えも及ばないところで確実に女性へと成長していた。
 今の今までそれに気付かなかったアスランが迂闊なのか、それとも幸運だったのか。しかし、知ってしまった以上、これまでと同じように生活することへの言い知れぬ不安を、アスランはこのとき感じたのだった。





「あー、クソッ!」
 寝返りを打ちながら、悪態をつく。
 深夜を過ぎているのに、まったく眠気が襲ってこない。それどころか、瞼を閉じれば下着姿のキラが脳裡に浮かび、かえって目が冴えてしまう。
 あの騒動の後、悪気はなかったとは言え、年頃の女の子の裸を見てしまったことへの謝罪はしなければと、リビングでキラを待ち伏せたはいいが、アスランが謝罪する前に、バスタオルを投げ付けたことを逆に誤られて、アスランの罪悪感は行き場を失った。
 しかも、その後のキラの態度がこれまでとまったく変わらないものだから、ホッとする反面、自分は男として認識されていないのではないかと複雑な心境になった。

 ――この白い壁の向こう側で、キラが寝ている。

 アスランは湧き上がる不可解な苛立ちに、唇を噛み締めた。

 

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神里 美羽
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女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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