ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
2009/10/29 (Thu)
ヴェサリウス国際学園は、プラントの首都アプリリウスにある。
幼稚舎から大学までの一貫教育を実施しており、学力水準は世界でもトップクラスの学校だ。しかも、授業料が高額なため、中流家庭以下の子供が入学するのは難しく、主に金に糸目をつけない富裕層の子息や息女の在学が目立った。
しかし、授業について行けなければ、どんなに高名な人物の子供であろうと、進学はおろか進級さえできず、容赦なく落第の烙印を押されることになる。
そのヴェサリウス国際学園において、初等部から高等部までを取り仕切る“学生会”は絶対的な権力を持っている。特に今期の会長は歴代の会長の中でも最高の知性とカリスマ性を持ち合わせていた。
彼の名は――アスラン・ザラ。
オリエンタルブルーの髪と、エメラルドの瞳を持つ美貌の学生会会長である。
幼稚舎から大学までの一貫教育を実施しており、学力水準は世界でもトップクラスの学校だ。しかも、授業料が高額なため、中流家庭以下の子供が入学するのは難しく、主に金に糸目をつけない富裕層の子息や息女の在学が目立った。
しかし、授業について行けなければ、どんなに高名な人物の子供であろうと、進学はおろか進級さえできず、容赦なく落第の烙印を押されることになる。
そのヴェサリウス国際学園において、初等部から高等部までを取り仕切る“学生会”は絶対的な権力を持っている。特に今期の会長は歴代の会長の中でも最高の知性とカリスマ性を持ち合わせていた。
彼の名は――アスラン・ザラ。
オリエンタルブルーの髪と、エメラルドの瞳を持つ美貌の学生会会長である。
紳士な暴君と可憐なお姫様
ヴェサリウス国際学園南校舎の二階にある学生会室の隣に、“それ”はあった。
――会長専用執務室。
アスランがその権力と私的財産とで造らせた部屋は、大層なネーミングとは裏腹に専ら彼の溺愛する恋人との逢瀬のために使用されていた。
予鈴は、もう一時間も前に午後の授業の開始を告げていた――。
初夏の日差しがさんさんと降り注ぐ外の陽気など忌々しいとばかりに、閉め切られたカーテンの内側では、不健全な運動をした後の淫蕩な空気が漂っていた。
少女の濡れたカラダをタオルで拭い、着崩れた制服を直してやりながら、アスランはくつくつと笑う。
「まったく……この俺にここまで尽くさせるのはお前だけだぞ。――キラ」
ピンク色に染まった柔らかな頬を撫で、艶やかな亜麻色の長い髪に口吻けても、アスランお気に入りの菫色の瞳が開かれることはなかった。
アスランは嘆息した。
行為を強要した手前、キラの眠りを妨げるわけにはいかない。非常に残念だが、アレは官能に潤んだときが一番綺麗なのだと納得して、最後にキラのカラダに自分のジャケットを羽織らせた。
乱れた前髪を掻き上げながら、学生会室に続くドアを開けた瞬間、アスランは痛いほどの視線に気付く。――学生会メンバーの内の三人が、まだ残っていた。
「……なんだ、まだいたのか」
学生会のメンバーが、昼休みに学生会室に集まることは珍しくない。
別に何をするでもなく、個人が思い思いに過ごすことが多いが、今日は夏休み中に行われる、オーブのクサナギ学院高校との親睦会についての会議が行われていた。毎年行われている行事なのだが、参加は自由であり、今年はヴェサリウス国際学園の担当だった。しかし、その会議の終盤にキラが現れて以降、執務室に篭もりきっていたアスランは、すっかり彼らのことを忘れていたのだ。
つい先程まで淫らで可愛いキラを見ていただけに、むさ苦しい三人の存在は鬱陶しかった。
「いや、ね。俺はクラスに戻ろうかと思ってたんだけど、イザークがアスランに一言言っておかないと気が済まないらしくてさ」
ディアッカがお手上げ状態で、隣にいるイザークの顔を窺う。
女子生徒からは『クールだ』と持て囃(はや)されているイザークが、実は直情型で感情が表に出やすいことは彼と親しい人間なら誰でも知っている。
そのイザークが言わんとしていることを正確に理解していながら、アスランはあくまで無自覚を装い、近くの椅子に腰を下ろした。長い脚を組んで、肘掛けに片肘を突き、手の甲にあごを乗せると口元に酷薄な笑みを浮かべて、どうぞと促す。
「俺は前々から一言言いたかった。貴様は神聖な学生会室を何だと思っているッ。真っ昼間から……は、は、破廉恥な行為を――ッ!」
「要するに、学生会室をラブホ代わりにすんなってことだよな、イザーク?」
「うるさいッ。貴様は黙っていろ、ディアッカ!」
怒鳴られたディアッカは大げさに肩を竦めて、背後のソファに倒れ込んだ。
アスランはそれを横目で見て、フッと嗤った。
確かに、半年前からアスランの箍は外れてしまったらしい。ヘリオポリスに留学していたキラが三年ぶりに帰国したからとか、家では両親に邪魔をされて、キラに触れられないからなどと言い訳しても、イザークの怒りに拍車をかけることは必至だった。
「大体、キラはあんなに嫌がっていただろうッ」
イザークが顔を真っ赤にして、キラを起こさない程度の音量で叫んだ。――彼は意外に純情なのだ。
そんなに恥ずかしいのなら言わなければいいのに、とアスランは思う。だが、言わずにいられないのがイザークの性分だ。
“羞恥”という感情を母親の胎内に捨ててきてしまった厚顔なアスランには、一生理解できないだろう。だから彼の言うとおり、キラの悩ましい嬌声も、キラを攻め立てるアスランの言動の数々も、すべてが筒抜けだったとしても、アスランは一向に気にしたことはない。
当初、苦情を申し出てきた面々には、『壁の防音ばかり気を取られて、ドアにまで気が回らなかった』と“言い訳”しておいたが、信じている者など一人もいないことはわかっているし、密閉された空間が防音されていると信じきっているキラには、これからもその事実を教えるつもりもない。
アスランにとって大事なのは、【キラが誰のモノであるか】を知らしめることにあった。
キラの容姿が、いい意味でも悪い意味でもヒトを魅了するらしいと気付いたのは、アスランがまだ幼少の頃のことだ。
父と大して歳の変わらない男がやたらとキラを構いたがったり、『今度、遊びにおいで』と見苦しいほど肥えた腹を揺すりながら下品な顔で笑う姿を見るたびに、アスランは目の前の男たちを今すぐにでもくびり殺してやりたい衝動に駆られた。
そして、それはキラが十七歳になった今でも変わらない。アスランとカラダを繋げる関係になり、蝶がさなぎから羽化するかの如く艶やかさが増すと、キラに懸想する者も比例するように増えた。
当然のことながら、真綿で包むように大事に育てた“花”に“虫”が群がることを許すほど、アスランは寛大ではない。ましてや、“花の蜜”を奪おうとするならば、容赦なく叩きつぶした。もちろん、旧知の仲である学生会メンバーの三人であっても、例外ではない。
アスランが純粋培養のキラを守るために、優秀であることはもちろん、誰よりも狡猾、且つ冷酷でなければならなかったのはそのためなのだから。
アスランは目を細めて、くつくつと嗤う。
「何が可笑しい、アスラン」
「わわッ――イザーク、落ち着けよッ!」
今にも飛びかかりそうな勢いのイザークを、ディアッカが咄嗟に後ろから羽交い締めにした。
「莫迦ですねぇ、イザークは」
すると、アスランに代わって、ニコルがパタパタと手を振った。
「……なんだと」
「『嫌よ嫌よも好きのうち』って言葉、知りません? 好きな人にされることですよ、嫌なはずがないでしょう? キラさんの『嫌』は『イイ』の意味なんですよ。まぁ、アスラン限定ですけどね」
やっていられない、とでも言いたげに、ニコルがアスランを睨む。イザークは口をパクパクと開閉させるだけで、言葉も出ないようだ。
「イザークには到底理解できないよなぁ。まだドーテーくんだし」
「えぇッ!? イザークってば、“まだ”なんですか?」
「――く、うるさいうるさいッ!」
ディアッカの言葉にニコルが大仰に驚くと、イザークは自分を羽交い締めにしているディアッカを振り払った。
「そうゆう貴様らはどうなんだ!」
ビシッ、とディアッカとニコルに向けて指を指すが、墓穴もいいところだ。
「あ、俺、初めては家庭教師だったぜ。しかも、精通と童貞喪失が一緒」
「あー、あのやたらと露出の激しかった人ですね?」
「お前だって、中等部んときの担任だろ? 確か……」
「マリア先生です」
「そうそう。貞淑そうな名前のくせに、裏で男子生徒を結構食ってたらしいって噂だったよな。そういえば、アスランも食われたんだっけ?」
ディアッカは、もうすでに話題に付いていけないイザークを放っておくことにしたらしい。
「莫迦言え。俺の童貞はキラに捧げたに決まってるだろ」
「嘘吐くなよ。姫が処女じゃなくなったのは、留学から戻ってきてからなんだろう? でも、俺は姫がいない三年間の、お前の所業を知ってるんだぜ」
いい推察眼だと感心した。
キラの留学は、絶対に避けられないものだった。それが、アスランとの仲を認めてもらうための、ヤマト側の条件だったからだ。
離れている間のことは心配だったし、出発の前々日の夜に『アスランのことをすぐ思い出せるように』とキラからの魅力的な誘いもあった。いっそのこと、キラを抱いてしまえばどれほど楽だったかと思いはしたけれど、それでも尚、アスランはキラを少女のまま送り出した。
キラの、人を惹き付ける特異体質が、“女”になることで開花するのを危惧したのだ。
「予行練習だよ、キラを傷つけないためのね」
「……ものは言い様ですねぇ」
髪を掻き上げて、過去、抱いてきた女たちを嘲て冷笑すると、ニコルが呆れたようにため息を吐いた。
「だが、それが事実だ。心が通い合わないセックスなんて、マスターベーションと大差ないだろう? だから、本当の意味での俺の童貞喪失はキラとの初めてのセックスのときだ」
迷いなくきっぱりと言い切ると、ニコルとディアッカが苦笑した。
「まぁ、そうですね。そういうことにしておきましょうか」
「だな。真実を知って、姫が傷つくのは俺も本意じゃないし。お前が校内の女に手を出さなかったってのも、そういう理由なんだろうからさ」
――キラを傷つけたくない。
それならば、誰も抱かなければいい。
しかし、年頃の男にとってこの問題は結構切実だった。自慰だけでは、どうしても抑えられない欲望があるのだ。
アスランは遠くにいるキラを重ねながら、何度も名前も知らない女を抱いた。ただし、一晩限りと割り切っていたから、どんなに強請られても同じ女と二度と会うことはなかった。校内では食指の動く適当な女がいなかっただけなのだが、キラに知られるリスクを負うよりはいい。
二人の話に釣られてしまったアスランは、すっかりもう一人の存在を忘れていた。――その最後の一人が純情で、潔癖症で、一番厄介だというのに。
「き、貴様らーッ。不誠実にもほどがあるぞッ、恥ずかしいと思わんのかッ! 特にアスラン――貴様は心に決めた相手がいながら、」
「あーはいはい、わかったよ。俺たちが悪うございました」
ディアッカのおざなりな態度が、イザークの怒りに更に火を付けたようだ。今度はディアッカに詰め寄った。
アスランはイザークの怒りの矛先がディアッカに移ったのをいいことに、椅子に深く凭れかかる。イザークとディアッカの喧噪に耳を傾けながら、瞑想するように目を閉じた。
「……アスラン?」
いくらも時間が経たないうちに、躊躇いがちな幼い声が鮮明に耳に届く。カラダを起こして、椅子の背越しに振り向けば、アスランの愛しい姫君が綺麗な菫色の瞳を瞬かせた。
「キラ、起きたのか?」
手を差し出すと、キラは素直にアスランの手を取った。アスランはそのまま優しく手を引いて、キラを自分の膝の上に座らせる。キラが腕に掛けていたアスランのジャケットは、裾の短いスカートを考慮して、キラの膝に掛けてやった。
「まだ寝ていれば良かったのに。カラダが少し熱っぽいな」
抱きしめたカラダの異変に気付いて指摘をすれば、キラは頬をプックリと膨らませた。
「だって……アスランがいっぱいするから」
「ああ、そうだな。俺が悪かった」
クスクスと笑いながら、キラの前髪を掻き上げて、あらわになった額に口吻ける。キラはくすぐったそうに首を竦めた。
「今日はもう帰ろう。あまり無理をしないほうがいい」
無理をさせた張本人が言えた義理ではないなと思いつつ、アスランは微苦笑した。そして、同時に自分をジッと上目遣いで見つめるキラに気付く。
「ん? どうした?」
「……もう、しない?」
「何を?」
「だから……もうエッチなこと、しない?」
恥ずかしそうに呟かれた言葉は、きっと至近距離のアスランにしか聞こえなかったはずだ。耳まで真っ赤にして、そんな可愛いことを口走ったら、男の欲望を煽るだけだとキラは気付いているのだろうか。
アスランはクラクラと目眩にも似た感覚を覚えながら、自分を煽った責任は取ってもらおうと口元に笑みを刻んだ。
「キラはしてほしいのか?」
「……え?」
「さっき、あれだけしたのに足りなかったか?」
「そ、そんなことないもんッ」
言葉の意味を正確に理解したらしいキラが、アスランの腕の中で暴れ、膝に掛けてあったアスランのジャケットが床に落ちた。危ないからと更に強く抱きかかえようとするより早く、キラがアスランの腕の中から飛び出した。
「アスランの――バカ!」
黒と青のチェック柄の短いプリーツスカートをフワリと翻して、キラが駆け出す。あっという間に、姿が見えなくなった。
アスランに暴言を吐いて、まったく何もお咎めがないのはキラくらいのもので、アスランの両親でさえ多少なりとも報復を受けるのは間違いない。それほどまでにキラの存在は、アスランにとって特別だった。
「あー、ちょーっと待った」
キラを追いかけようとして、アスランはディアッカに呼び止められた。
「なんだ」
不機嫌さを隠そうともせずに言うと、ディアッカは肩を竦めた。
アスランとしては、体調不良のキラが気にかかる。その原因が自分だということは、頭の隅にすっかり追いやられていた。
「そんな怒んなよ、姫に逃げられたからって」
「――ディアッカ」
地に這うような低い声で名前を呼ぶと、ディアッカが不意に真剣な表情を覗かせた。
「冗談だよ。こっからは真面目な話。クサナギ学院の生徒会役員の中に少し気になる奴がいたから、調べ置いた」
「気になる……?」
「ああ、ちょっとヤバめな感じってのかな。とにかく、コレ見てくれればわかるから」
渡されたマイクロSDとディアッカを、アスランは交互に見つめる。
「……わかった、見ておく」
そして、無造作にそれをジャケットのポケットに突っ込むと、キラが置いていったアスランのジャケットを拾い上げて、足早にキラを追いかけた。
廊下に出たときには、もうすでにキラの姿はなかった。
アスランは廊下の一番右端の窓から外を見る。
キラの走る姿が目に映る。そして、正門前に黒塗りの高級外車の存在を見つけて、ニヤリと嗤った。
「勝手に帰ろうとするなんて、悪い子だな」
アスランが乗り込むと、車は緩やかに発進した。
案の定、キラはアスランが予め呼んでおいた使用人によって、車の中に捕獲されていたのだ。
まだ拗ねモード継続中のキラの肩をそっと抱きよせると、それほど大きな抵抗はされない。きっと、熱のせいでカラダが思うように動かないのだろう。
「キラ、揶揄ったりして悪かった。どうしたら、機嫌が直る?」
アスランが他人に対して、ここまで低姿勢になることは殆どない。ディアッカ辺りが聞いたら、途端に卒倒でもしそうだが、アスランはキラにはどこまでも甘かった。
しかし、キラはなかなか答えようとしない。
こうして、カラダに触れるとこは許されているのだから、キラが本気で怒っていないことはわかる。だが、もしかしたら、体調がかなり悪いのかもしれないとアスランは心配になった。
「――キラ」
顔を覗き込もうとしたそのとき、突然、キラがアスランのカラダに、ギュッ、と抱き着いた。
「……一緒に寝て」
キラの突飛な発言には昔から慣れているアスランでさえ面食らう。彼女は先程まで学生会室であれだけ『エッチなことはしない』と宣言していたはずだ。
「キラ。そういうことを言うと俺は、」
「違うよ!」
キラが飛び退くように、アスランから身を離す。
「ただ一緒に寝るだけ。何もしないで、ギュウって。そしたら、許してあげる」
何の罰ゲームかと思った。――まるで拷問だと。
愛しいキラと同じベッドで寝て、何もせずにいられるほどアスランは聖人君子ではない。ましてや、キラとは毎日のようにカラダを繋ぎ合う仲なのだから。
しかし、ニッコリと無邪気に笑うキラを見て、アスランは覚悟した。ここでまた拗ねられて、キラの機嫌の悪さが長引けば、それこそアスランにとっては死活問題となる。
「……わかった」
「ホントッ!? ギュッて、抱き締めて寝るだけだよ?」
「ああ。それで機嫌を直してくれるんだろう?」
途端に、大輪の花が咲いたような笑みがキラの顔に浮かぶ。
この顔一つで何でもしてあげたくなってしまうのだから、我ながら呆れるしかない。アスランがそれだけベタ惚れなのだと、キラ本人が気付いているかどうかは怪しいが。
「アスラン、大好きッ」
「俺も……愛してるよ」
アスランは苦笑しながら、自分の腕に抱き着くキラの頭を撫でた。
「ほら、さっきよりカラダが熱い。俺の膝、貸してやるから少し寝ていろ」
キラは素直にアスランの膝に頭を乗せた。
華奢なカラダに自分のジャケットを被せて、指通りのいいキラの髪を梳いてやると、瞬く間に眼下のキラから穏やかな寝息が聞こえ始めた。
やはり、キラの小さなカラダではアスランの全力を受け取ることは難しいらしい。だが、回数を減らそうとか、せめて一日置きにするとか、そういったことを考えないのはアスランがアスランたる所以である。
キラの寝顔を眺めながら、アスランはディアッカに渡されたマイクロSDを思い出した。
ジャケットのポケットを探って、携帯電話とマイクロSDを取り出すと、自分のSDと入れ替える。
――ディアッカが“気になる”と言っていた人物。
アスランは“それ”に目を見張る。そして、不愉快もあらわに目を眇めた。
ヴェサリウス国際学園南校舎の二階にある学生会室の隣に、“それ”はあった。
――会長専用執務室。
アスランがその権力と私的財産とで造らせた部屋は、大層なネーミングとは裏腹に専ら彼の溺愛する恋人との逢瀬のために使用されていた。
予鈴は、もう一時間も前に午後の授業の開始を告げていた――。
初夏の日差しがさんさんと降り注ぐ外の陽気など忌々しいとばかりに、閉め切られたカーテンの内側では、不健全な運動をした後の淫蕩な空気が漂っていた。
少女の濡れたカラダをタオルで拭い、着崩れた制服を直してやりながら、アスランはくつくつと笑う。
「まったく……この俺にここまで尽くさせるのはお前だけだぞ。――キラ」
ピンク色に染まった柔らかな頬を撫で、艶やかな亜麻色の長い髪に口吻けても、アスランお気に入りの菫色の瞳が開かれることはなかった。
アスランは嘆息した。
行為を強要した手前、キラの眠りを妨げるわけにはいかない。非常に残念だが、アレは官能に潤んだときが一番綺麗なのだと納得して、最後にキラのカラダに自分のジャケットを羽織らせた。
乱れた前髪を掻き上げながら、学生会室に続くドアを開けた瞬間、アスランは痛いほどの視線に気付く。――学生会メンバーの内の三人が、まだ残っていた。
「……なんだ、まだいたのか」
学生会のメンバーが、昼休みに学生会室に集まることは珍しくない。
別に何をするでもなく、個人が思い思いに過ごすことが多いが、今日は夏休み中に行われる、オーブのクサナギ学院高校との親睦会についての会議が行われていた。毎年行われている行事なのだが、参加は自由であり、今年はヴェサリウス国際学園の担当だった。しかし、その会議の終盤にキラが現れて以降、執務室に篭もりきっていたアスランは、すっかり彼らのことを忘れていたのだ。
つい先程まで淫らで可愛いキラを見ていただけに、むさ苦しい三人の存在は鬱陶しかった。
「いや、ね。俺はクラスに戻ろうかと思ってたんだけど、イザークがアスランに一言言っておかないと気が済まないらしくてさ」
ディアッカがお手上げ状態で、隣にいるイザークの顔を窺う。
女子生徒からは『クールだ』と持て囃(はや)されているイザークが、実は直情型で感情が表に出やすいことは彼と親しい人間なら誰でも知っている。
そのイザークが言わんとしていることを正確に理解していながら、アスランはあくまで無自覚を装い、近くの椅子に腰を下ろした。長い脚を組んで、肘掛けに片肘を突き、手の甲にあごを乗せると口元に酷薄な笑みを浮かべて、どうぞと促す。
「俺は前々から一言言いたかった。貴様は神聖な学生会室を何だと思っているッ。真っ昼間から……は、は、破廉恥な行為を――ッ!」
「要するに、学生会室をラブホ代わりにすんなってことだよな、イザーク?」
「うるさいッ。貴様は黙っていろ、ディアッカ!」
怒鳴られたディアッカは大げさに肩を竦めて、背後のソファに倒れ込んだ。
アスランはそれを横目で見て、フッと嗤った。
確かに、半年前からアスランの箍は外れてしまったらしい。ヘリオポリスに留学していたキラが三年ぶりに帰国したからとか、家では両親に邪魔をされて、キラに触れられないからなどと言い訳しても、イザークの怒りに拍車をかけることは必至だった。
「大体、キラはあんなに嫌がっていただろうッ」
イザークが顔を真っ赤にして、キラを起こさない程度の音量で叫んだ。――彼は意外に純情なのだ。
そんなに恥ずかしいのなら言わなければいいのに、とアスランは思う。だが、言わずにいられないのがイザークの性分だ。
“羞恥”という感情を母親の胎内に捨ててきてしまった厚顔なアスランには、一生理解できないだろう。だから彼の言うとおり、キラの悩ましい嬌声も、キラを攻め立てるアスランの言動の数々も、すべてが筒抜けだったとしても、アスランは一向に気にしたことはない。
当初、苦情を申し出てきた面々には、『壁の防音ばかり気を取られて、ドアにまで気が回らなかった』と“言い訳”しておいたが、信じている者など一人もいないことはわかっているし、密閉された空間が防音されていると信じきっているキラには、これからもその事実を教えるつもりもない。
アスランにとって大事なのは、【キラが誰のモノであるか】を知らしめることにあった。
キラの容姿が、いい意味でも悪い意味でもヒトを魅了するらしいと気付いたのは、アスランがまだ幼少の頃のことだ。
父と大して歳の変わらない男がやたらとキラを構いたがったり、『今度、遊びにおいで』と見苦しいほど肥えた腹を揺すりながら下品な顔で笑う姿を見るたびに、アスランは目の前の男たちを今すぐにでもくびり殺してやりたい衝動に駆られた。
そして、それはキラが十七歳になった今でも変わらない。アスランとカラダを繋げる関係になり、蝶がさなぎから羽化するかの如く艶やかさが増すと、キラに懸想する者も比例するように増えた。
当然のことながら、真綿で包むように大事に育てた“花”に“虫”が群がることを許すほど、アスランは寛大ではない。ましてや、“花の蜜”を奪おうとするならば、容赦なく叩きつぶした。もちろん、旧知の仲である学生会メンバーの三人であっても、例外ではない。
アスランが純粋培養のキラを守るために、優秀であることはもちろん、誰よりも狡猾、且つ冷酷でなければならなかったのはそのためなのだから。
アスランは目を細めて、くつくつと嗤う。
「何が可笑しい、アスラン」
「わわッ――イザーク、落ち着けよッ!」
今にも飛びかかりそうな勢いのイザークを、ディアッカが咄嗟に後ろから羽交い締めにした。
「莫迦ですねぇ、イザークは」
すると、アスランに代わって、ニコルがパタパタと手を振った。
「……なんだと」
「『嫌よ嫌よも好きのうち』って言葉、知りません? 好きな人にされることですよ、嫌なはずがないでしょう? キラさんの『嫌』は『イイ』の意味なんですよ。まぁ、アスラン限定ですけどね」
やっていられない、とでも言いたげに、ニコルがアスランを睨む。イザークは口をパクパクと開閉させるだけで、言葉も出ないようだ。
「イザークには到底理解できないよなぁ。まだドーテーくんだし」
「えぇッ!? イザークってば、“まだ”なんですか?」
「――く、うるさいうるさいッ!」
ディアッカの言葉にニコルが大仰に驚くと、イザークは自分を羽交い締めにしているディアッカを振り払った。
「そうゆう貴様らはどうなんだ!」
ビシッ、とディアッカとニコルに向けて指を指すが、墓穴もいいところだ。
「あ、俺、初めては家庭教師だったぜ。しかも、精通と童貞喪失が一緒」
「あー、あのやたらと露出の激しかった人ですね?」
「お前だって、中等部んときの担任だろ? 確か……」
「マリア先生です」
「そうそう。貞淑そうな名前のくせに、裏で男子生徒を結構食ってたらしいって噂だったよな。そういえば、アスランも食われたんだっけ?」
ディアッカは、もうすでに話題に付いていけないイザークを放っておくことにしたらしい。
「莫迦言え。俺の童貞はキラに捧げたに決まってるだろ」
「嘘吐くなよ。姫が処女じゃなくなったのは、留学から戻ってきてからなんだろう? でも、俺は姫がいない三年間の、お前の所業を知ってるんだぜ」
いい推察眼だと感心した。
キラの留学は、絶対に避けられないものだった。それが、アスランとの仲を認めてもらうための、ヤマト側の条件だったからだ。
離れている間のことは心配だったし、出発の前々日の夜に『アスランのことをすぐ思い出せるように』とキラからの魅力的な誘いもあった。いっそのこと、キラを抱いてしまえばどれほど楽だったかと思いはしたけれど、それでも尚、アスランはキラを少女のまま送り出した。
キラの、人を惹き付ける特異体質が、“女”になることで開花するのを危惧したのだ。
「予行練習だよ、キラを傷つけないためのね」
「……ものは言い様ですねぇ」
髪を掻き上げて、過去、抱いてきた女たちを嘲て冷笑すると、ニコルが呆れたようにため息を吐いた。
「だが、それが事実だ。心が通い合わないセックスなんて、マスターベーションと大差ないだろう? だから、本当の意味での俺の童貞喪失はキラとの初めてのセックスのときだ」
迷いなくきっぱりと言い切ると、ニコルとディアッカが苦笑した。
「まぁ、そうですね。そういうことにしておきましょうか」
「だな。真実を知って、姫が傷つくのは俺も本意じゃないし。お前が校内の女に手を出さなかったってのも、そういう理由なんだろうからさ」
――キラを傷つけたくない。
それならば、誰も抱かなければいい。
しかし、年頃の男にとってこの問題は結構切実だった。自慰だけでは、どうしても抑えられない欲望があるのだ。
アスランは遠くにいるキラを重ねながら、何度も名前も知らない女を抱いた。ただし、一晩限りと割り切っていたから、どんなに強請られても同じ女と二度と会うことはなかった。校内では食指の動く適当な女がいなかっただけなのだが、キラに知られるリスクを負うよりはいい。
二人の話に釣られてしまったアスランは、すっかりもう一人の存在を忘れていた。――その最後の一人が純情で、潔癖症で、一番厄介だというのに。
「き、貴様らーッ。不誠実にもほどがあるぞッ、恥ずかしいと思わんのかッ! 特にアスラン――貴様は心に決めた相手がいながら、」
「あーはいはい、わかったよ。俺たちが悪うございました」
ディアッカのおざなりな態度が、イザークの怒りに更に火を付けたようだ。今度はディアッカに詰め寄った。
アスランはイザークの怒りの矛先がディアッカに移ったのをいいことに、椅子に深く凭れかかる。イザークとディアッカの喧噪に耳を傾けながら、瞑想するように目を閉じた。
「……アスラン?」
いくらも時間が経たないうちに、躊躇いがちな幼い声が鮮明に耳に届く。カラダを起こして、椅子の背越しに振り向けば、アスランの愛しい姫君が綺麗な菫色の瞳を瞬かせた。
「キラ、起きたのか?」
手を差し出すと、キラは素直にアスランの手を取った。アスランはそのまま優しく手を引いて、キラを自分の膝の上に座らせる。キラが腕に掛けていたアスランのジャケットは、裾の短いスカートを考慮して、キラの膝に掛けてやった。
「まだ寝ていれば良かったのに。カラダが少し熱っぽいな」
抱きしめたカラダの異変に気付いて指摘をすれば、キラは頬をプックリと膨らませた。
「だって……アスランがいっぱいするから」
「ああ、そうだな。俺が悪かった」
クスクスと笑いながら、キラの前髪を掻き上げて、あらわになった額に口吻ける。キラはくすぐったそうに首を竦めた。
「今日はもう帰ろう。あまり無理をしないほうがいい」
無理をさせた張本人が言えた義理ではないなと思いつつ、アスランは微苦笑した。そして、同時に自分をジッと上目遣いで見つめるキラに気付く。
「ん? どうした?」
「……もう、しない?」
「何を?」
「だから……もうエッチなこと、しない?」
恥ずかしそうに呟かれた言葉は、きっと至近距離のアスランにしか聞こえなかったはずだ。耳まで真っ赤にして、そんな可愛いことを口走ったら、男の欲望を煽るだけだとキラは気付いているのだろうか。
アスランはクラクラと目眩にも似た感覚を覚えながら、自分を煽った責任は取ってもらおうと口元に笑みを刻んだ。
「キラはしてほしいのか?」
「……え?」
「さっき、あれだけしたのに足りなかったか?」
「そ、そんなことないもんッ」
言葉の意味を正確に理解したらしいキラが、アスランの腕の中で暴れ、膝に掛けてあったアスランのジャケットが床に落ちた。危ないからと更に強く抱きかかえようとするより早く、キラがアスランの腕の中から飛び出した。
「アスランの――バカ!」
黒と青のチェック柄の短いプリーツスカートをフワリと翻して、キラが駆け出す。あっという間に、姿が見えなくなった。
アスランに暴言を吐いて、まったく何もお咎めがないのはキラくらいのもので、アスランの両親でさえ多少なりとも報復を受けるのは間違いない。それほどまでにキラの存在は、アスランにとって特別だった。
「あー、ちょーっと待った」
キラを追いかけようとして、アスランはディアッカに呼び止められた。
「なんだ」
不機嫌さを隠そうともせずに言うと、ディアッカは肩を竦めた。
アスランとしては、体調不良のキラが気にかかる。その原因が自分だということは、頭の隅にすっかり追いやられていた。
「そんな怒んなよ、姫に逃げられたからって」
「――ディアッカ」
地に這うような低い声で名前を呼ぶと、ディアッカが不意に真剣な表情を覗かせた。
「冗談だよ。こっからは真面目な話。クサナギ学院の生徒会役員の中に少し気になる奴がいたから、調べ置いた」
「気になる……?」
「ああ、ちょっとヤバめな感じってのかな。とにかく、コレ見てくれればわかるから」
渡されたマイクロSDとディアッカを、アスランは交互に見つめる。
「……わかった、見ておく」
そして、無造作にそれをジャケットのポケットに突っ込むと、キラが置いていったアスランのジャケットを拾い上げて、足早にキラを追いかけた。
廊下に出たときには、もうすでにキラの姿はなかった。
アスランは廊下の一番右端の窓から外を見る。
キラの走る姿が目に映る。そして、正門前に黒塗りの高級外車の存在を見つけて、ニヤリと嗤った。
「勝手に帰ろうとするなんて、悪い子だな」
アスランが乗り込むと、車は緩やかに発進した。
案の定、キラはアスランが予め呼んでおいた使用人によって、車の中に捕獲されていたのだ。
まだ拗ねモード継続中のキラの肩をそっと抱きよせると、それほど大きな抵抗はされない。きっと、熱のせいでカラダが思うように動かないのだろう。
「キラ、揶揄ったりして悪かった。どうしたら、機嫌が直る?」
アスランが他人に対して、ここまで低姿勢になることは殆どない。ディアッカ辺りが聞いたら、途端に卒倒でもしそうだが、アスランはキラにはどこまでも甘かった。
しかし、キラはなかなか答えようとしない。
こうして、カラダに触れるとこは許されているのだから、キラが本気で怒っていないことはわかる。だが、もしかしたら、体調がかなり悪いのかもしれないとアスランは心配になった。
「――キラ」
顔を覗き込もうとしたそのとき、突然、キラがアスランのカラダに、ギュッ、と抱き着いた。
「……一緒に寝て」
キラの突飛な発言には昔から慣れているアスランでさえ面食らう。彼女は先程まで学生会室であれだけ『エッチなことはしない』と宣言していたはずだ。
「キラ。そういうことを言うと俺は、」
「違うよ!」
キラが飛び退くように、アスランから身を離す。
「ただ一緒に寝るだけ。何もしないで、ギュウって。そしたら、許してあげる」
何の罰ゲームかと思った。――まるで拷問だと。
愛しいキラと同じベッドで寝て、何もせずにいられるほどアスランは聖人君子ではない。ましてや、キラとは毎日のようにカラダを繋ぎ合う仲なのだから。
しかし、ニッコリと無邪気に笑うキラを見て、アスランは覚悟した。ここでまた拗ねられて、キラの機嫌の悪さが長引けば、それこそアスランにとっては死活問題となる。
「……わかった」
「ホントッ!? ギュッて、抱き締めて寝るだけだよ?」
「ああ。それで機嫌を直してくれるんだろう?」
途端に、大輪の花が咲いたような笑みがキラの顔に浮かぶ。
この顔一つで何でもしてあげたくなってしまうのだから、我ながら呆れるしかない。アスランがそれだけベタ惚れなのだと、キラ本人が気付いているかどうかは怪しいが。
「アスラン、大好きッ」
「俺も……愛してるよ」
アスランは苦笑しながら、自分の腕に抱き着くキラの頭を撫でた。
「ほら、さっきよりカラダが熱い。俺の膝、貸してやるから少し寝ていろ」
キラは素直にアスランの膝に頭を乗せた。
華奢なカラダに自分のジャケットを被せて、指通りのいいキラの髪を梳いてやると、瞬く間に眼下のキラから穏やかな寝息が聞こえ始めた。
やはり、キラの小さなカラダではアスランの全力を受け取ることは難しいらしい。だが、回数を減らそうとか、せめて一日置きにするとか、そういったことを考えないのはアスランがアスランたる所以である。
キラの寝顔を眺めながら、アスランはディアッカに渡されたマイクロSDを思い出した。
ジャケットのポケットを探って、携帯電話とマイクロSDを取り出すと、自分のSDと入れ替える。
――ディアッカが“気になる”と言っていた人物。
アスランは“それ”に目を見張る。そして、不愉快もあらわに目を眇めた。
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神里 美羽
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女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
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