ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
2009/10/29 (Thu)
――カガリ・ユラ・アスハ。
クサナギ学院高校生徒会会長であり、電子産業の分野では世界でも五本の指に入る巨大企業モルゲンレーテ社の社長令嬢。
名前と経歴を見ただけでは、その人物の容貌を思い出すことはできなかった。しかし、ご丁寧に添付された顔写真を見た瞬間、アスランは自分の顔が歪むのを自覚した。
たった一度だけキラのいないプラントの夜の街で出会った女。
いつだったかも記憶にないほどに印象が薄い。
当然だ。
アスランは彼女を抱かなかったのだから。
いや、だからこそ、記憶の片隅に残っていたのだろうか――。
アスランにしては珍しく、彼女にだけは食指が動かなかった。
どこか、キラを彷彿とさせる外見に魅せられて声を掛けてみたものの、アスランは遊びだけで済まされる女ではないと本能的に悟った。
そして、彼女とは適当に会話をして別れたはずだった。
アスランにとって、他の女はキラの身代わりであり、キラのいない寂しさを一時的に紛らわせてくれるだけの存在だ。だから、一晩だけの相手だと割り切れない女ほど厄介なものはない。
それなのに、なぜ、今頃になってアスランの前に現れるのか。
これが、偶然ならばそれでいい。
だが、そうでないなら――。
クサナギ学院高校生徒会会長であり、電子産業の分野では世界でも五本の指に入る巨大企業モルゲンレーテ社の社長令嬢。
名前と経歴を見ただけでは、その人物の容貌を思い出すことはできなかった。しかし、ご丁寧に添付された顔写真を見た瞬間、アスランは自分の顔が歪むのを自覚した。
たった一度だけキラのいないプラントの夜の街で出会った女。
いつだったかも記憶にないほどに印象が薄い。
当然だ。
アスランは彼女を抱かなかったのだから。
いや、だからこそ、記憶の片隅に残っていたのだろうか――。
アスランにしては珍しく、彼女にだけは食指が動かなかった。
どこか、キラを彷彿とさせる外見に魅せられて声を掛けてみたものの、アスランは遊びだけで済まされる女ではないと本能的に悟った。
そして、彼女とは適当に会話をして別れたはずだった。
アスランにとって、他の女はキラの身代わりであり、キラのいない寂しさを一時的に紛らわせてくれるだけの存在だ。だから、一晩だけの相手だと割り切れない女ほど厄介なものはない。
それなのに、なぜ、今頃になってアスランの前に現れるのか。
これが、偶然ならばそれでいい。
だが、そうでないなら――。
◇◆◇◆
夏休みもあと数週間と迫った七月最初の休日に、クサナギ学院高校生徒会一行がヴェサリウス国際学園を訪れた。
八月初旬に行われる親睦会についての具体的な話し合いのためだったが、キラと一緒にいられる貴重な休みを潰されて、アスランの不機嫌さは目も当てられない状態だった。人当たりの良さを理由に、アスランの補佐役に選ばれたニコルが彼らの相手をしているときも、アスランは宇宙港からの道程の間、無言のまま車の外の流れる景色を眺めていた。
「では、まず学生会室にご案内します。そちらで親睦会の具体的な内容をご説明し、その後、皆さんが親睦会の際に宿泊する予定の、ヴェサリウス国際学園の宿舎を見ていただくようになります」
丁寧な言い回しで説明するニコルと二人で一行を先導して歩くアスランは、背後から注がれる熱の篭もった視線に気付いていた。空港で顔を合わせた際も、偶然の再会に対する純粋な驚きの表情はなく、むしろアスランに再会することを事前に知っていたような喜色満面の顔をして、しかも、媚びるような態度さえ窺わせた。
やはり、危惧したとおりの事態になったようだとアスランは確信した。
やがて、学生会室がある二階への階段に足をかけたとき、アスランは愛しい存在を視界の隅に捕らえた。
「キラッ」
失礼と断りを入れて、キラの元へ駆け寄る。
昇降口の方から歩いてきたらしいキラは、二人の少年を引き連れていた。――シン・アスカとレイ・ザ・バレルである。
彼らはキラの祖父がキラのためだけに仕わせたボディガードで、普段はこの学園の生徒として通学している。今日のようにアスランが傍にいられないときなどには、キラと行動を共にすることになっていた。
「どうして、ここに?」
学校に来るなんて聞いていない、休日の学校に何の用があって来たのかと問えば、いけなかったのだろうかと不安そうに表情を曇らせる。どうやら、キラはアスランが不機嫌であることに気付いたようだ。
「あのね、急にカトー先生に呼ばれて、プログラムの解析を頼まれたの」
しかし、慌てて言い繕うキラに苦笑して、アスランはかぶりを振った。機嫌が悪いのは、決してキラの所為ではないのだから。
「怒っているわけじゃないよ、キラ。でも、自分の立場を少しは考えてほしいかな」
シンとレイの実力を過小評価しているわけではないが、それでも用心するに越したことはないと言い含めれば、キラは幼い子供のようにこくんと頷いた。
実際、ザラ家とヤマト家は富裕層でありながら、一般的なそれとは異なる存在であり、社会的な立場も微妙だ。
――なぜなら、ザラもヤマトも裏社会の組織だからだ。
ザラ家の当主となるべく、幼い頃から英才教育を施されたアスランの父パトリックと、ヤマト家現当主の三男として生まれ、比較的自由に育ったキラの父ハルマは、互いに“悪友”だと公言するほど仲がいい。結婚した時期も、それぞれの妻が子を身篭もった時期も同じ頃だったことから、性別が判明したのを機に子供同士を結婚させようと誓いも立てたほどだ。
物心つく前から『キラは未来の花嫁だ』と聞かされ続けてきたアスランは、両親の一方的な決定に反発することは一度もなかった。
純粋無垢で優しくて、日向のように温かいキラが可愛くて、そして、愛しかったのだ。
見た目は幼くても、すでに成熟した思考の持ち主だったアスランは、早くからこの想いが恋情であることに気付いていた。しかし、見た目以上に精神年齢が幼かったキラの“好き”とアスランのそれが同等であるはずがないことも知っていた。
だから、アスランは愛の言葉を惜しみなく囁き、長い時間をかけて、洗脳するようにキラの意識を自分へと向けさせた。
その甲斐あって、二人が中学に上がる頃には、本当の意味での許嫁となったのだが――。
想いが通じ合い、まさにこれからというときに横槍が入った。
ヤマト本家の当主でもあるキラの祖父が、ザラ家に嫁がせるのであれば、きちんとした教育を施したいと申し出てきたのだ。
アスランもアスランの両親も、キラさえ嫁いでくれればそれで良かったのだが、ヤマト家の当主に頭を下げられれば否とは言えない。長い話し合いの末、中学三年から高校二年の年明けまでの約三年間を、キラはオーブで過ごすことになってしまった。
アスランにとっては、予想外の出来事だった。
それでも、三年間、丸きり会えなかったわけではないし、長期休暇にはオーブにまで遊びに行ったりもしていた。しかし、会うたびに幼さが抜け、綺麗になっていくキラにアスランが焦燥感を抱かないわけがない。
帰国するまで抱かないと決めたことを後悔しながらも、頑なに誓いを守り続けたアスランが、半年前に花嫁修業から帰国したキラを、その日の夜に抱いてしまったとしても致し方ないことだった。
――やっと、手に入れたキラ。
自分の手で破瓜の血を流れさせたことの昂揚や、翌朝、キラのあどけない寝顔を見たときの愛しさは、どれだけ言葉を飾っても言い尽くせるものではなかった。
だから、たとえ過保護だと言われても、キラとの幸福な未来を邪魔する者がいるのなら容赦なく切り捨てるし、必要ならば、この手を汚すことだって厭わない。
「じゃあ、カトー先生によろしく伝えておいて。近いうちにご挨拶に伺いますから、って」
教師陣をも支配下に置くアスランの脅しは、一言一句、間違えることなく相手に伝わるはずだ。
案の定、伝言を頼まれたキラは、隠された言葉の意味さえ気付かずに笑顔で快諾し、「アスランも頑張ってね」と可愛らしい励ましまでくれた。
これで、アスランの許可なく、キラを勝手に呼び出した無能教師は、当分の間、戦々恐々とした日々を送ることだろう。
アスランは、キラの滑らかな頬に口吻ける。
受ける側のキラは、普段から場所を選ばずスキンシップされることが多いせいか、まったく気にする様子もなく、二人をよく知る人間も呆れを通り越して、歯牙にも掛けていないらしい。
しかし、ある人物からキラへと向けられる憎悪と殺意が篭められた視線。
どうやら不穏なことが起こりそうだと予感し、アスランは心の裡で嘲笑する。そして、アスランとキラの邪魔にならず、且つ、何かあればすぐにアスランたちを守れる程度に距離にいるボディガードの二人に目配せをした。
彼らがその意図に気づき、小さく頷いたのを確認して、アスランはキラと別れた。
◇◆◇◆
キラとの短い逢瀬で少しだけ浮上した機嫌も、執拗な視線の前に再び地の底へと沈みそうだった。しかし、彼らをオーブへ送り出すまで、アスランの仕事は終わらない。
ニコルが親睦会の資料を読み上げ、所々、補足を加える。
ニコルとイザークに挟まれた席で、アスランは目を閉じた。会議を放棄したわけではない。資料を見なくても、すべて記憶されているのだ。だから、このくだらない会議が早く終わることを願って、口も挟まなかった。
「……十五時三十二分発のシャトルで帰国予定となっています。資料のご説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
クサナギ学院高校の生徒会役員は、資料の完璧さに唖然としている。
そもそも、ヴェサリウス国際学園の頭脳と謳われる、学生会メンバーが会議を重ね、作成した資料に異論を挟むなど、彼らのレベルでは不可能だ。
「質問がないようですので、一度、休憩を入れてから宿舎にご案内します」
ニコルの言葉に各自が椅子から立ち上がったとき、ジャケットのポケットに入っていたアスランの携帯電話が鳴り響いた。
「アスラン、会議のときくらい電源を切っておけ」
イザークが渋面を作って注意するが、アスランは気にする素振りも見せず、携帯電話を取り出した。
「……緊急事態だ」
アスランは常に二つの携帯電話を所持している。――プライベート用と緊急用のものだ。
プライベート用はキラや学生会のメンバーなど親しい人間に、緊急用は主にキラに関する連絡のために、邸の執事やボディガードの二人に教えていた。
そして、現在、着信音を響かせているのは、その緊急用の携帯電話だった。
「緊急事態――?」
学生会メンバーが揃えて怪訝そうな声を上げたが、アスランはそれを無視して、携帯電話の受話口に耳を押し当てる。
『レイです』
すると、受話口を通し、彼の切迫した雰囲気が伝わって、アスランは顔を顰める。
「――どうした?」
『少し目を離した隙に、キラ様を拉致されました』
申し訳ありません、と言う謝罪の言葉にも、アスランは意外にも冷静だった。彼らの不始末を詰っても、拉致されたキラが戻ってくるわけではない。
キラを無事に救出するために、今は少しでも多くの情報が必要だ。
「それで、犯人は?」
『どこにでもいる、不良グループのようです』
逃げ遅れた男一人を捕まえて、白状させたようだ。
男たちのグループは、一週間ほど前にサングラスを掛けた黒ずくめの男二人に頼まれて、二、三日前からキラを張っていたらしいとの報告に、アスランは思わず舌打ちした。
送話口の向こうでは許しを請う男の悲痛な声が聞こえたが、アスランにとっては怒りを助長させるものでしかなかった。できることならば、アスラン自らの手で男も、男の仲間たちも殺してやりたいほどだ。
『二人組の男は名前を告げなかったようですが、近くに止めてあった黒塗りの高級車の後部座席に、成人前の金髪の女が乗っていた、と』
“金髪の女”というキーワードで、アスランはすべてを理解した。
目線だけを動かして、カガリ・ユラ・アスハを見遣れば、初めて視線を合わせられたことに喜色の表情を浮かべた彼女の姿が目に入った。
アスランはあまりの苦々しさに奥歯を噛み締め、視線を逸らした。
これは、プラント国内なら何をしようとしても把握できる、キラに手出しできるはずがないと侮っていたアスランの完全なる落ち度だ。
「そうか、わかった。お前たちは男を連れて、学校まで戻ってこい。男を家の者に引き渡したあと、キラの救出に向かう」
レイの了解の言葉を聞いて通話を切ったアスランは椅子から立ち上がり、暢気に笑う女を見下ろした。
酷く冷酷な表情をしている自覚はあるが、こんな女に愛想を振りまいてやる義理などない。
「さて、君とは少し個人的な会話が必要のようだ。――カガリ・ユラ・アスハ嬢」
身の程も弁えない、愚かな女に制裁を――。
夏休みもあと数週間と迫った七月最初の休日に、クサナギ学院高校生徒会一行がヴェサリウス国際学園を訪れた。
八月初旬に行われる親睦会についての具体的な話し合いのためだったが、キラと一緒にいられる貴重な休みを潰されて、アスランの不機嫌さは目も当てられない状態だった。人当たりの良さを理由に、アスランの補佐役に選ばれたニコルが彼らの相手をしているときも、アスランは宇宙港からの道程の間、無言のまま車の外の流れる景色を眺めていた。
「では、まず学生会室にご案内します。そちらで親睦会の具体的な内容をご説明し、その後、皆さんが親睦会の際に宿泊する予定の、ヴェサリウス国際学園の宿舎を見ていただくようになります」
丁寧な言い回しで説明するニコルと二人で一行を先導して歩くアスランは、背後から注がれる熱の篭もった視線に気付いていた。空港で顔を合わせた際も、偶然の再会に対する純粋な驚きの表情はなく、むしろアスランに再会することを事前に知っていたような喜色満面の顔をして、しかも、媚びるような態度さえ窺わせた。
やはり、危惧したとおりの事態になったようだとアスランは確信した。
やがて、学生会室がある二階への階段に足をかけたとき、アスランは愛しい存在を視界の隅に捕らえた。
「キラッ」
失礼と断りを入れて、キラの元へ駆け寄る。
昇降口の方から歩いてきたらしいキラは、二人の少年を引き連れていた。――シン・アスカとレイ・ザ・バレルである。
彼らはキラの祖父がキラのためだけに仕わせたボディガードで、普段はこの学園の生徒として通学している。今日のようにアスランが傍にいられないときなどには、キラと行動を共にすることになっていた。
「どうして、ここに?」
学校に来るなんて聞いていない、休日の学校に何の用があって来たのかと問えば、いけなかったのだろうかと不安そうに表情を曇らせる。どうやら、キラはアスランが不機嫌であることに気付いたようだ。
「あのね、急にカトー先生に呼ばれて、プログラムの解析を頼まれたの」
しかし、慌てて言い繕うキラに苦笑して、アスランはかぶりを振った。機嫌が悪いのは、決してキラの所為ではないのだから。
「怒っているわけじゃないよ、キラ。でも、自分の立場を少しは考えてほしいかな」
シンとレイの実力を過小評価しているわけではないが、それでも用心するに越したことはないと言い含めれば、キラは幼い子供のようにこくんと頷いた。
実際、ザラ家とヤマト家は富裕層でありながら、一般的なそれとは異なる存在であり、社会的な立場も微妙だ。
――なぜなら、ザラもヤマトも裏社会の組織だからだ。
ザラ家の当主となるべく、幼い頃から英才教育を施されたアスランの父パトリックと、ヤマト家現当主の三男として生まれ、比較的自由に育ったキラの父ハルマは、互いに“悪友”だと公言するほど仲がいい。結婚した時期も、それぞれの妻が子を身篭もった時期も同じ頃だったことから、性別が判明したのを機に子供同士を結婚させようと誓いも立てたほどだ。
物心つく前から『キラは未来の花嫁だ』と聞かされ続けてきたアスランは、両親の一方的な決定に反発することは一度もなかった。
純粋無垢で優しくて、日向のように温かいキラが可愛くて、そして、愛しかったのだ。
見た目は幼くても、すでに成熟した思考の持ち主だったアスランは、早くからこの想いが恋情であることに気付いていた。しかし、見た目以上に精神年齢が幼かったキラの“好き”とアスランのそれが同等であるはずがないことも知っていた。
だから、アスランは愛の言葉を惜しみなく囁き、長い時間をかけて、洗脳するようにキラの意識を自分へと向けさせた。
その甲斐あって、二人が中学に上がる頃には、本当の意味での許嫁となったのだが――。
想いが通じ合い、まさにこれからというときに横槍が入った。
ヤマト本家の当主でもあるキラの祖父が、ザラ家に嫁がせるのであれば、きちんとした教育を施したいと申し出てきたのだ。
アスランもアスランの両親も、キラさえ嫁いでくれればそれで良かったのだが、ヤマト家の当主に頭を下げられれば否とは言えない。長い話し合いの末、中学三年から高校二年の年明けまでの約三年間を、キラはオーブで過ごすことになってしまった。
アスランにとっては、予想外の出来事だった。
それでも、三年間、丸きり会えなかったわけではないし、長期休暇にはオーブにまで遊びに行ったりもしていた。しかし、会うたびに幼さが抜け、綺麗になっていくキラにアスランが焦燥感を抱かないわけがない。
帰国するまで抱かないと決めたことを後悔しながらも、頑なに誓いを守り続けたアスランが、半年前に花嫁修業から帰国したキラを、その日の夜に抱いてしまったとしても致し方ないことだった。
――やっと、手に入れたキラ。
自分の手で破瓜の血を流れさせたことの昂揚や、翌朝、キラのあどけない寝顔を見たときの愛しさは、どれだけ言葉を飾っても言い尽くせるものではなかった。
だから、たとえ過保護だと言われても、キラとの幸福な未来を邪魔する者がいるのなら容赦なく切り捨てるし、必要ならば、この手を汚すことだって厭わない。
「じゃあ、カトー先生によろしく伝えておいて。近いうちにご挨拶に伺いますから、って」
教師陣をも支配下に置くアスランの脅しは、一言一句、間違えることなく相手に伝わるはずだ。
案の定、伝言を頼まれたキラは、隠された言葉の意味さえ気付かずに笑顔で快諾し、「アスランも頑張ってね」と可愛らしい励ましまでくれた。
これで、アスランの許可なく、キラを勝手に呼び出した無能教師は、当分の間、戦々恐々とした日々を送ることだろう。
アスランは、キラの滑らかな頬に口吻ける。
受ける側のキラは、普段から場所を選ばずスキンシップされることが多いせいか、まったく気にする様子もなく、二人をよく知る人間も呆れを通り越して、歯牙にも掛けていないらしい。
しかし、ある人物からキラへと向けられる憎悪と殺意が篭められた視線。
どうやら不穏なことが起こりそうだと予感し、アスランは心の裡で嘲笑する。そして、アスランとキラの邪魔にならず、且つ、何かあればすぐにアスランたちを守れる程度に距離にいるボディガードの二人に目配せをした。
彼らがその意図に気づき、小さく頷いたのを確認して、アスランはキラと別れた。
◇◆◇◆
キラとの短い逢瀬で少しだけ浮上した機嫌も、執拗な視線の前に再び地の底へと沈みそうだった。しかし、彼らをオーブへ送り出すまで、アスランの仕事は終わらない。
ニコルが親睦会の資料を読み上げ、所々、補足を加える。
ニコルとイザークに挟まれた席で、アスランは目を閉じた。会議を放棄したわけではない。資料を見なくても、すべて記憶されているのだ。だから、このくだらない会議が早く終わることを願って、口も挟まなかった。
「……十五時三十二分発のシャトルで帰国予定となっています。資料のご説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
クサナギ学院高校の生徒会役員は、資料の完璧さに唖然としている。
そもそも、ヴェサリウス国際学園の頭脳と謳われる、学生会メンバーが会議を重ね、作成した資料に異論を挟むなど、彼らのレベルでは不可能だ。
「質問がないようですので、一度、休憩を入れてから宿舎にご案内します」
ニコルの言葉に各自が椅子から立ち上がったとき、ジャケットのポケットに入っていたアスランの携帯電話が鳴り響いた。
「アスラン、会議のときくらい電源を切っておけ」
イザークが渋面を作って注意するが、アスランは気にする素振りも見せず、携帯電話を取り出した。
「……緊急事態だ」
アスランは常に二つの携帯電話を所持している。――プライベート用と緊急用のものだ。
プライベート用はキラや学生会のメンバーなど親しい人間に、緊急用は主にキラに関する連絡のために、邸の執事やボディガードの二人に教えていた。
そして、現在、着信音を響かせているのは、その緊急用の携帯電話だった。
「緊急事態――?」
学生会メンバーが揃えて怪訝そうな声を上げたが、アスランはそれを無視して、携帯電話の受話口に耳を押し当てる。
『レイです』
すると、受話口を通し、彼の切迫した雰囲気が伝わって、アスランは顔を顰める。
「――どうした?」
『少し目を離した隙に、キラ様を拉致されました』
申し訳ありません、と言う謝罪の言葉にも、アスランは意外にも冷静だった。彼らの不始末を詰っても、拉致されたキラが戻ってくるわけではない。
キラを無事に救出するために、今は少しでも多くの情報が必要だ。
「それで、犯人は?」
『どこにでもいる、不良グループのようです』
逃げ遅れた男一人を捕まえて、白状させたようだ。
男たちのグループは、一週間ほど前にサングラスを掛けた黒ずくめの男二人に頼まれて、二、三日前からキラを張っていたらしいとの報告に、アスランは思わず舌打ちした。
送話口の向こうでは許しを請う男の悲痛な声が聞こえたが、アスランにとっては怒りを助長させるものでしかなかった。できることならば、アスラン自らの手で男も、男の仲間たちも殺してやりたいほどだ。
『二人組の男は名前を告げなかったようですが、近くに止めてあった黒塗りの高級車の後部座席に、成人前の金髪の女が乗っていた、と』
“金髪の女”というキーワードで、アスランはすべてを理解した。
目線だけを動かして、カガリ・ユラ・アスハを見遣れば、初めて視線を合わせられたことに喜色の表情を浮かべた彼女の姿が目に入った。
アスランはあまりの苦々しさに奥歯を噛み締め、視線を逸らした。
これは、プラント国内なら何をしようとしても把握できる、キラに手出しできるはずがないと侮っていたアスランの完全なる落ち度だ。
「そうか、わかった。お前たちは男を連れて、学校まで戻ってこい。男を家の者に引き渡したあと、キラの救出に向かう」
レイの了解の言葉を聞いて通話を切ったアスランは椅子から立ち上がり、暢気に笑う女を見下ろした。
酷く冷酷な表情をしている自覚はあるが、こんな女に愛想を振りまいてやる義理などない。
「さて、君とは少し個人的な会話が必要のようだ。――カガリ・ユラ・アスハ嬢」
身の程も弁えない、愚かな女に制裁を――。
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HN:
神里 美羽
性別:
女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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