ガンダムSEED(アスキラ)&ガンダムOO(ロク刹)の二次創作小説サイトです。
2009/10/28 (Wed)
ずっと一緒
アスランの誕生日は、いつもキラと二人きりで祝うのが恒例――本当はレノアとカリダも同席しているのだが、アスランの記憶回路からは抹消されている――で、当然、今年もそうなるはずだったのだが、予定外の訪問者のおかげでアスランの機嫌は低下する一方だった。
無駄に秀麗な顔立ちをしているだけに、表情を失くしたアスランの顔はそれだけで相手を威嚇するには十分なものだったが、それに加えて明らかに殺気の篭った視線を向けても、むかつくことに家に押し掛けて来た邪魔者達は軽く受け流してくれた。
せめてもの救いは、アスランの隣にピッタリとキラが寄り添っていることくらいだろうか。
それだって、今日がアスランの誕生日だからという理由で許しが出ているだけで、これが普段の日であれば、間違いなく彼らの邪魔が入るのは必至だ。日常茶飯事に行われるキラ争奪戦に気付かないのは、その対象となっている天然のキラだけだった。
「アスラン、楽しくないの?」
水面下の攻防が繰り広げられる中、キラがアスランの不機嫌な顔を覗き込んで、悲しみに顔を曇らせた。
「そんなことないよ、キラ」
平常心を装って、いつものようにキラだけに向ける優しい笑みを浮かべると、キラは胸元に手を当てて、安堵するようにほぅっとため息をついた。
「良かったぁ。僕、二人でお祝いしようねって言ってたのに、二人を連れて来たから、アスランが怒ってるのかと思っちゃった」
「キラ。ごめんね、心配かけて。本音を言えば、キラと二人でお祝いしたかったけど、皆がいるのも悪くないよ」
愛するキラを安心させるためならば、例え本心では(早く帰りやがれ、このやろー)と思っていたとしても、ピンクの性悪女王やら、腹黒若草王子やらに愛想笑いを振り撒くくらい造作もない。
アスランは嘘を並べ立てながら、一番好きなキラの菫色の瞳を見るために前髪を軽く払い除ける。キラは「そうだよね」と嬉しそうに笑って、キラは小皿に取り分けた料理のうちのローストチキンを手に持っていたフォークで刺して、アスランの口元へ運んでくれた。「あーん」と差し出されたそれを口の中に入れて、アスランは溢れる幸福感を味わった。
新婚夫婦も真っ青の甘々な空気を撒き散らすアスランとキラだが、二人にはお互いの誕生日のときだけの特別な約束事がある。
――――それぞれの誕生日に三つだけ願い事を叶える、である。
キラから言い出した約束は初めて出遭った年の誕生日からずっと続けている習慣で、アスランは今年のキラの誕生日に『マイクロユニットの課題を手伝う』『誕生日から一週間はキラを怒らない』『一緒にゲームをする』という、何ともキラらしい可愛い願い事を叶えてやった。
キラは“誕生日”というのは『おいしい料理やケーキが食べられて、たくさんのプレゼントを貰える特別な日』だと純粋に喜んでいるようだが、すでに成熟した思考を持つアスランには大した思い入れもなく、『子どもをいかに大切にしているかを示す親の自己満足の日』と蔑んでいた。しかし、キラに『おめでとう』と言われるのは例えようもなく擽ったくて、砂糖菓子のように甘い気持ちになる。それだけ、アスランの中でキラが占める比率は大きく、そして特別だった。 それは、『他のどんな願い事より、キラだけいれば十分だ』と思うほどのもので。
それなのに、キラの来訪を告げるインターフォンの画面越しにキラ以外の余計なモノを見たときには、思わず顔を顰めてしまった。 ――直接、ザラ邸を訪れれば追い返されるのはわかりきっているので、キラを誘いに行ったところに彼らの狡猾さが窺い知れる。
だから彼らにキラを奪われまいと、アスランは咄嗟に『隣で料理、食べさせて』と願い事を口走っていた。キラは「うん、いいよぉ」と嬉しそうに引き受けてくれたけれど、今思えばこの状況はキラが誰のモノなのかを知らしめるには絶好のチャンスだ。
キラにとっては大切な友達で、アスランにとっては邪魔な彼らの嫉妬と羨望の眼差しを受けながら、こんな風にキラとの仲を連中に見せつけるのも悪くはないと、アスランは心の中でほくそ笑んだ。
「それでは、そろそろプレゼントでもお渡ししましょうか」
「そうですね」
ピンクの性悪女王ことラクスの提案に、腹黒若草王子ことニコルが賛同して立ち上がった。
どうやら、アスランとキラの仲睦まじい姿を見せつけられるのに耐えられなくなったようだ。綺麗に作られた笑顔の裏で、激しい苛立ちが見え隠れしている。
「ありがとう」
ガラス製のローテーブルを回って来た二人から、キラ越しにプレゼントを受け取った瞬間、彼らと視線が合って、バチバチッと火花が散る。見えないそれに気付いたらしいキラが、頬張ったケーキごとフォークを銜えて「ん?」と視線を上げたが、結局何だったのかわからなかったようで、眉根を寄せて、コトリと小首を傾げた。
アスランは彼らのプレゼントを開きもせず、脇に寄せた。どうせ、禄でもないものに違いない。
すると、キラがフォークを皿に置いて、慌てた様子でアスランの右腕を掴んだ。
「アスランッ。あのね、あのね、僕もプレゼントあるの」
キラが差し出した二十センチほどの箱を受け取って、アスランは顔を綻ばせた。
「ありがとう、キラ。開けてもいい?」
「うん、どうぞ」
空の模様の入った包装紙を綺麗に剥がして、箱の蓋を開ける。
「デジタルフォトフレーム……?」
デジタルカメラのメモリーカードをこのフォトフレームのスロット部分に差し込んで記憶させ、液晶画面で写真を堪能するアレだ。
「僕もね、同じの買ったんだよ。だから、いっぱい写真撮ろうね!」
写真を撮られることが苦手なアスラン。『写真に写ると、魂を吸い取られる』という大昔の迷信を信じているわけでもないが、あの無機質な機械に向かって愛想よく笑えと言われて、それができるほどアスランは無邪気な少年ではなかった。
アスランは撮られるよりも撮るほうが好き――というか、キラの可愛さを引き出す写真を撮ることに余念がない。
そのアスランがキラのためとはいえ、写真に写ることは奇跡にも近いことで。
そんなことを考えたこともないであろうキラはともかく、向かいに座る腹黒コンビが意味ありげに微笑んだのを見て、アスランは舌打ちしたい気分になった。
しかし、それも一瞬のこと。
アスランはすぐさま立ち直ると、キラに向かって微笑んだ。
「そうだね。でも、俺が写ってる写真って少ないから、いっぱい写真を撮るまではキラの写真を飾っててもいい?」
「僕の? どんな?」
コテンと首を傾げたキラに、可愛いなぁと目を細めて、
「ほら、今年の夏休みに泊まりに行ったときの写真だよ。海で遊んでるときのだとか……あ、キラの寝顔もあるよ」
「え、え、えーっ!? ダメだよ、そんなのっ!!」
「どうして?」
「だって……はずかしいもん……」
真っ赤になって俯いてしまったキラの顔を覗き込んで、アスランは悲しみの表情を作った。
「どうしても、ダメ? 俺しか見ないよ?」
ダメ押しとばかりに、悲哀感たっぷりの声音で強請れば、キラが上目遣いでアスランを見上げた。
「これって、二つ目のお願い……?」
「うん、そうだよ、キラ。二つ目のお願い」
こう言えば、キラは仕方なしでも納得する、はずだ。
後は理由をつけて、のらりくらりとかわせば、キラのことだから、そのうち写真を撮るなんて約束も忘れてしまうだろう。
「んー……じゃあ、いいよ」
ようやく出たお許しに、心の中でガッツポーズをして、誰もが見惚れる――目の前の腹黒コンビには通用しない――笑みを浮かべると、キラは再び俯いてしまった。
アスランは恥らうキラに弱い。いつもぽややんとしているキラが真っ赤になってわたわたと焦る様は、アスランの嗜虐心を刺激する。アスランの一番好きなアメジストの瞳が恥ずかしさで潤むのを見ると、ぞくぞくと快感が走る。キラには悟られないようにしているが、こんなにアスランの心を掻き乱すのは、いつだってキラだけなのだ。
今だって、もっと可愛いキラが見たい、と膨れ上がる興奮を止められない。
(――あ、そうだ!)
可愛いキラを堪能しながら、腹黒コンビの悔しがる顔を同時に見られる方法を閃いたアスランは、キラの両手を掴んで、最後の願い事を口にした。
「キーラ、最後のお願い聞いて?」
「うん、いいよ!」
気を取り直したらしいキラが、まだ少し紅潮した顔を上げて、アスランを見つめる。期待に満ち溢れ、きらきらと光る紫玉の瞳が綺麗だと思った。
アスランはくすりと笑った。
「あのね、キスして?」
「キスって……ちゅーのこと?」
アスランが頷いて肯定すると、ぼぼぼぼんっと音がする勢いで、キラが顔のみならず、耳や首筋までも赤く染め上げた。
アスランは、可愛い、可愛すぎるっ! と叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だ。
「ダメダメダメダメダメーっ!!」
「どうして? いつもしてるだろ?」
いつもしているように、頬にちゅっとしてくれればいいだけなのに、キラはアスランの予想通り大袈裟なほど嫌がった。
「だって、『いつも』は二人だけのときでしょ!!」
キラのファーストキスを、アスランは一年ほど前にすでに頂いてしまっていた。アスランの初キスの相手だって、当然キラだ。
唇といわず、頬といわず、顔中、髪の毛一本に至るまで、アスランの唇が触れていない場所はない。
まだ触れるには躊躇われる首から下の、普段は衣服に隠されている場所は、もう少し大きく――いろんな意味で――なったら絶対に触るのだと決意して、その日のための情報の収集と訓練――いろんな意味で――を欠かしたことはない。
「ほんのちょっと、ちゅってするだけだよ?」
「やだよぉ……皆、見てるんだもん……」
どうやら、二人きりのときならいいらしい。だが、今日のパーティを邪魔されたお礼に、ラクスとニコルに一泡ふかせてやると意気込むアスランは一向に引く気はない。
「じゃあ、ラクスとニコルが帰った後、『あのキス』してもいいの?」
耳元で囁くと、キラの目が大きく見開かれ、「うぅ……」と唸る。
アスランの言った『あのキス』とは、唇を触れ合わせるだけではない、深いキスのこと。
舌で口内を弄られると、息苦しくて、力が抜けて、下半身が疼くから嫌だと言って、キラは特別なときにしかこのキスをさせてくれない。
アスランにとっては、最後の賭けだった。
すると――――。
「もういいでしょう、アスラン? 人前でキスするなんて、誰だって恥ずかしいですよ」
写真云々の遣り取りは黙って見ていたニコルが、急に口を挟んだ。
キラが悩んでいるこの機会に畳み掛けたかったアスランはむっとしたが、すぐさま気を沈めた。
「俺はキラとだったら、人前だろうがなんだろうが平気だ」
臆面もなくそう言い切ると、ラクスが顔を顰めた。
「それは、貴方の面の皮が厚いからですわ」
「――そうかもしれませんね」
にっこり笑って肯定すると、ラクスとニコルの頬が引き攣った。
今やザラ家のリビングは、妖怪戦争でも勃発しそうなほどおどろおどろしい空気に包まれている。しかし、その均衡を破ったのは、騒動の張本人だった。
アスランは、上着の裾をくいっと引っ張られる感覚に隣のキラを振り返った。
「ん? なーに、キラ?」
そこには、先ほどまでの冷淡な顔や戦慄するような殺気もなく、ただただ、優しく笑うだけ。「二重人格」と呟かれた、ラクスとニコルの言葉も、キラより大事なものなどないと無視をした。
「……ほんの少し、ちゅってすればいいの?」
「うん、そうだよ。キス、してくれる?」
「わ、かった……」
その瞬間、ヨッシャー!! とアスランは内心で拳を天高く突き上げた。
「じゃあ、目、瞑って……?」
アスランはぎりぎりと歯軋りするラクスとニコルにふふんっと勝利の笑みを浮かべて、目を閉じた。
両頬にキラのぷくぷくとした小さな手が添えられた感触が気持ちいい。アスランの心臓は、どきどきとはち切れそうなほど高鳴っていた。
いつもキスを仕掛けるのはアスランで、キラからしてもらったことなど一度もないのだ。
「いく、よ?」
一体、どこに行くのかと突っ込みたくなるような可愛らしい宣言をして、アスランの頬に添えてあるキラの両手に力が篭った。
閉じた視界の向こうで、キラの動く気配がして、「あっ!!」とラクスとニコルの悲鳴にも似た叫び声が上がる。
彼らの声に反応して、目を開けた瞬間、目の前に影ができた。
(――えっ!?)
ぷにっと何かが唇に触れた感触――――。
あっという間に離れてしまったが、それがキラのそれだと気付くのに時間は掛からなかった。思わず、口元を右手で押さえて、目を丸くする。
「え、キラ……?」
「したよ、ちゅー。これでいいんだよ、ね……?」
狐に抓まれたように茫然としているアスランの態度を不安に思ったのか、キラが顔を覗き込んでくる。
アスランとしては、頬のキスをしてくれたら上等だと思っていたので、まさに意表を突かれる形となった。
「キラァァァァッ!」
「ア、アスランッ!?」
目の前の小さな体を抱き締めて、アスランは嬉しい誤算に狂喜乱舞する。
幸せすぎて、今にも昇天してしまいそうだ。
「な、な、な――――!?」
「アスランッ、今すぐキラから離れなさい!!」
その日、アスランの誕生日パーティは、常夏の南国とブリザード吹き荒れる北極を同時に再現するという怪奇現象を引き起こしたまま、幕を閉じた。
「アスラン、生まれてきてくれてありがとう。これからもずーっと一緒だよ」
「うん、これからもずっと、ね」
額をこつんと突き合せて、二人はにっこりと微笑んだ。
「アスラン、誕生日おめでとうっ!」
大きなワンホールケーキに立てられた七本のローソクを吹き消すと、歓声と拍手が沸き上がった。
「ありがとう」
明かりの点いた部屋を見渡して、アスランは不機嫌も顕わにお礼の言葉を返した。
大きなワンホールケーキに立てられた七本のローソクを吹き消すと、歓声と拍手が沸き上がった。
「ありがとう」
明かりの点いた部屋を見渡して、アスランは不機嫌も顕わにお礼の言葉を返した。
ずっと一緒
アスランの誕生日は、いつもキラと二人きりで祝うのが恒例――本当はレノアとカリダも同席しているのだが、アスランの記憶回路からは抹消されている――で、当然、今年もそうなるはずだったのだが、予定外の訪問者のおかげでアスランの機嫌は低下する一方だった。
無駄に秀麗な顔立ちをしているだけに、表情を失くしたアスランの顔はそれだけで相手を威嚇するには十分なものだったが、それに加えて明らかに殺気の篭った視線を向けても、むかつくことに家に押し掛けて来た邪魔者達は軽く受け流してくれた。
せめてもの救いは、アスランの隣にピッタリとキラが寄り添っていることくらいだろうか。
それだって、今日がアスランの誕生日だからという理由で許しが出ているだけで、これが普段の日であれば、間違いなく彼らの邪魔が入るのは必至だ。日常茶飯事に行われるキラ争奪戦に気付かないのは、その対象となっている天然のキラだけだった。
「アスラン、楽しくないの?」
水面下の攻防が繰り広げられる中、キラがアスランの不機嫌な顔を覗き込んで、悲しみに顔を曇らせた。
「そんなことないよ、キラ」
平常心を装って、いつものようにキラだけに向ける優しい笑みを浮かべると、キラは胸元に手を当てて、安堵するようにほぅっとため息をついた。
「良かったぁ。僕、二人でお祝いしようねって言ってたのに、二人を連れて来たから、アスランが怒ってるのかと思っちゃった」
「キラ。ごめんね、心配かけて。本音を言えば、キラと二人でお祝いしたかったけど、皆がいるのも悪くないよ」
愛するキラを安心させるためならば、例え本心では(早く帰りやがれ、このやろー)と思っていたとしても、ピンクの性悪女王やら、腹黒若草王子やらに愛想笑いを振り撒くくらい造作もない。
アスランは嘘を並べ立てながら、一番好きなキラの菫色の瞳を見るために前髪を軽く払い除ける。キラは「そうだよね」と嬉しそうに笑って、キラは小皿に取り分けた料理のうちのローストチキンを手に持っていたフォークで刺して、アスランの口元へ運んでくれた。「あーん」と差し出されたそれを口の中に入れて、アスランは溢れる幸福感を味わった。
新婚夫婦も真っ青の甘々な空気を撒き散らすアスランとキラだが、二人にはお互いの誕生日のときだけの特別な約束事がある。
――――それぞれの誕生日に三つだけ願い事を叶える、である。
キラから言い出した約束は初めて出遭った年の誕生日からずっと続けている習慣で、アスランは今年のキラの誕生日に『マイクロユニットの課題を手伝う』『誕生日から一週間はキラを怒らない』『一緒にゲームをする』という、何ともキラらしい可愛い願い事を叶えてやった。
キラは“誕生日”というのは『おいしい料理やケーキが食べられて、たくさんのプレゼントを貰える特別な日』だと純粋に喜んでいるようだが、すでに成熟した思考を持つアスランには大した思い入れもなく、『子どもをいかに大切にしているかを示す親の自己満足の日』と蔑んでいた。しかし、キラに『おめでとう』と言われるのは例えようもなく擽ったくて、砂糖菓子のように甘い気持ちになる。それだけ、アスランの中でキラが占める比率は大きく、そして特別だった。 それは、『他のどんな願い事より、キラだけいれば十分だ』と思うほどのもので。
それなのに、キラの来訪を告げるインターフォンの画面越しにキラ以外の余計なモノを見たときには、思わず顔を顰めてしまった。 ――直接、ザラ邸を訪れれば追い返されるのはわかりきっているので、キラを誘いに行ったところに彼らの狡猾さが窺い知れる。
だから彼らにキラを奪われまいと、アスランは咄嗟に『隣で料理、食べさせて』と願い事を口走っていた。キラは「うん、いいよぉ」と嬉しそうに引き受けてくれたけれど、今思えばこの状況はキラが誰のモノなのかを知らしめるには絶好のチャンスだ。
キラにとっては大切な友達で、アスランにとっては邪魔な彼らの嫉妬と羨望の眼差しを受けながら、こんな風にキラとの仲を連中に見せつけるのも悪くはないと、アスランは心の中でほくそ笑んだ。
「それでは、そろそろプレゼントでもお渡ししましょうか」
「そうですね」
ピンクの性悪女王ことラクスの提案に、腹黒若草王子ことニコルが賛同して立ち上がった。
どうやら、アスランとキラの仲睦まじい姿を見せつけられるのに耐えられなくなったようだ。綺麗に作られた笑顔の裏で、激しい苛立ちが見え隠れしている。
「ありがとう」
ガラス製のローテーブルを回って来た二人から、キラ越しにプレゼントを受け取った瞬間、彼らと視線が合って、バチバチッと火花が散る。見えないそれに気付いたらしいキラが、頬張ったケーキごとフォークを銜えて「ん?」と視線を上げたが、結局何だったのかわからなかったようで、眉根を寄せて、コトリと小首を傾げた。
アスランは彼らのプレゼントを開きもせず、脇に寄せた。どうせ、禄でもないものに違いない。
すると、キラがフォークを皿に置いて、慌てた様子でアスランの右腕を掴んだ。
「アスランッ。あのね、あのね、僕もプレゼントあるの」
キラが差し出した二十センチほどの箱を受け取って、アスランは顔を綻ばせた。
「ありがとう、キラ。開けてもいい?」
「うん、どうぞ」
空の模様の入った包装紙を綺麗に剥がして、箱の蓋を開ける。
「デジタルフォトフレーム……?」
デジタルカメラのメモリーカードをこのフォトフレームのスロット部分に差し込んで記憶させ、液晶画面で写真を堪能するアレだ。
「僕もね、同じの買ったんだよ。だから、いっぱい写真撮ろうね!」
写真を撮られることが苦手なアスラン。『写真に写ると、魂を吸い取られる』という大昔の迷信を信じているわけでもないが、あの無機質な機械に向かって愛想よく笑えと言われて、それができるほどアスランは無邪気な少年ではなかった。
アスランは撮られるよりも撮るほうが好き――というか、キラの可愛さを引き出す写真を撮ることに余念がない。
そのアスランがキラのためとはいえ、写真に写ることは奇跡にも近いことで。
そんなことを考えたこともないであろうキラはともかく、向かいに座る腹黒コンビが意味ありげに微笑んだのを見て、アスランは舌打ちしたい気分になった。
しかし、それも一瞬のこと。
アスランはすぐさま立ち直ると、キラに向かって微笑んだ。
「そうだね。でも、俺が写ってる写真って少ないから、いっぱい写真を撮るまではキラの写真を飾っててもいい?」
「僕の? どんな?」
コテンと首を傾げたキラに、可愛いなぁと目を細めて、
「ほら、今年の夏休みに泊まりに行ったときの写真だよ。海で遊んでるときのだとか……あ、キラの寝顔もあるよ」
「え、え、えーっ!? ダメだよ、そんなのっ!!」
「どうして?」
「だって……はずかしいもん……」
真っ赤になって俯いてしまったキラの顔を覗き込んで、アスランは悲しみの表情を作った。
「どうしても、ダメ? 俺しか見ないよ?」
ダメ押しとばかりに、悲哀感たっぷりの声音で強請れば、キラが上目遣いでアスランを見上げた。
「これって、二つ目のお願い……?」
「うん、そうだよ、キラ。二つ目のお願い」
こう言えば、キラは仕方なしでも納得する、はずだ。
後は理由をつけて、のらりくらりとかわせば、キラのことだから、そのうち写真を撮るなんて約束も忘れてしまうだろう。
「んー……じゃあ、いいよ」
ようやく出たお許しに、心の中でガッツポーズをして、誰もが見惚れる――目の前の腹黒コンビには通用しない――笑みを浮かべると、キラは再び俯いてしまった。
アスランは恥らうキラに弱い。いつもぽややんとしているキラが真っ赤になってわたわたと焦る様は、アスランの嗜虐心を刺激する。アスランの一番好きなアメジストの瞳が恥ずかしさで潤むのを見ると、ぞくぞくと快感が走る。キラには悟られないようにしているが、こんなにアスランの心を掻き乱すのは、いつだってキラだけなのだ。
今だって、もっと可愛いキラが見たい、と膨れ上がる興奮を止められない。
(――あ、そうだ!)
可愛いキラを堪能しながら、腹黒コンビの悔しがる顔を同時に見られる方法を閃いたアスランは、キラの両手を掴んで、最後の願い事を口にした。
「キーラ、最後のお願い聞いて?」
「うん、いいよ!」
気を取り直したらしいキラが、まだ少し紅潮した顔を上げて、アスランを見つめる。期待に満ち溢れ、きらきらと光る紫玉の瞳が綺麗だと思った。
アスランはくすりと笑った。
「あのね、キスして?」
「キスって……ちゅーのこと?」
アスランが頷いて肯定すると、ぼぼぼぼんっと音がする勢いで、キラが顔のみならず、耳や首筋までも赤く染め上げた。
アスランは、可愛い、可愛すぎるっ! と叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だ。
「ダメダメダメダメダメーっ!!」
「どうして? いつもしてるだろ?」
いつもしているように、頬にちゅっとしてくれればいいだけなのに、キラはアスランの予想通り大袈裟なほど嫌がった。
「だって、『いつも』は二人だけのときでしょ!!」
キラのファーストキスを、アスランは一年ほど前にすでに頂いてしまっていた。アスランの初キスの相手だって、当然キラだ。
唇といわず、頬といわず、顔中、髪の毛一本に至るまで、アスランの唇が触れていない場所はない。
まだ触れるには躊躇われる首から下の、普段は衣服に隠されている場所は、もう少し大きく――いろんな意味で――なったら絶対に触るのだと決意して、その日のための情報の収集と訓練――いろんな意味で――を欠かしたことはない。
「ほんのちょっと、ちゅってするだけだよ?」
「やだよぉ……皆、見てるんだもん……」
どうやら、二人きりのときならいいらしい。だが、今日のパーティを邪魔されたお礼に、ラクスとニコルに一泡ふかせてやると意気込むアスランは一向に引く気はない。
「じゃあ、ラクスとニコルが帰った後、『あのキス』してもいいの?」
耳元で囁くと、キラの目が大きく見開かれ、「うぅ……」と唸る。
アスランの言った『あのキス』とは、唇を触れ合わせるだけではない、深いキスのこと。
舌で口内を弄られると、息苦しくて、力が抜けて、下半身が疼くから嫌だと言って、キラは特別なときにしかこのキスをさせてくれない。
アスランにとっては、最後の賭けだった。
すると――――。
「もういいでしょう、アスラン? 人前でキスするなんて、誰だって恥ずかしいですよ」
写真云々の遣り取りは黙って見ていたニコルが、急に口を挟んだ。
キラが悩んでいるこの機会に畳み掛けたかったアスランはむっとしたが、すぐさま気を沈めた。
「俺はキラとだったら、人前だろうがなんだろうが平気だ」
臆面もなくそう言い切ると、ラクスが顔を顰めた。
「それは、貴方の面の皮が厚いからですわ」
「――そうかもしれませんね」
にっこり笑って肯定すると、ラクスとニコルの頬が引き攣った。
今やザラ家のリビングは、妖怪戦争でも勃発しそうなほどおどろおどろしい空気に包まれている。しかし、その均衡を破ったのは、騒動の張本人だった。
アスランは、上着の裾をくいっと引っ張られる感覚に隣のキラを振り返った。
「ん? なーに、キラ?」
そこには、先ほどまでの冷淡な顔や戦慄するような殺気もなく、ただただ、優しく笑うだけ。「二重人格」と呟かれた、ラクスとニコルの言葉も、キラより大事なものなどないと無視をした。
「……ほんの少し、ちゅってすればいいの?」
「うん、そうだよ。キス、してくれる?」
「わ、かった……」
その瞬間、ヨッシャー!! とアスランは内心で拳を天高く突き上げた。
「じゃあ、目、瞑って……?」
アスランはぎりぎりと歯軋りするラクスとニコルにふふんっと勝利の笑みを浮かべて、目を閉じた。
両頬にキラのぷくぷくとした小さな手が添えられた感触が気持ちいい。アスランの心臓は、どきどきとはち切れそうなほど高鳴っていた。
いつもキスを仕掛けるのはアスランで、キラからしてもらったことなど一度もないのだ。
「いく、よ?」
一体、どこに行くのかと突っ込みたくなるような可愛らしい宣言をして、アスランの頬に添えてあるキラの両手に力が篭った。
閉じた視界の向こうで、キラの動く気配がして、「あっ!!」とラクスとニコルの悲鳴にも似た叫び声が上がる。
彼らの声に反応して、目を開けた瞬間、目の前に影ができた。
(――えっ!?)
ぷにっと何かが唇に触れた感触――――。
あっという間に離れてしまったが、それがキラのそれだと気付くのに時間は掛からなかった。思わず、口元を右手で押さえて、目を丸くする。
「え、キラ……?」
「したよ、ちゅー。これでいいんだよ、ね……?」
狐に抓まれたように茫然としているアスランの態度を不安に思ったのか、キラが顔を覗き込んでくる。
アスランとしては、頬のキスをしてくれたら上等だと思っていたので、まさに意表を突かれる形となった。
「キラァァァァッ!」
「ア、アスランッ!?」
目の前の小さな体を抱き締めて、アスランは嬉しい誤算に狂喜乱舞する。
幸せすぎて、今にも昇天してしまいそうだ。
「な、な、な――――!?」
「アスランッ、今すぐキラから離れなさい!!」
その日、アスランの誕生日パーティは、常夏の南国とブリザード吹き荒れる北極を同時に再現するという怪奇現象を引き起こしたまま、幕を閉じた。
「アスラン、生まれてきてくれてありがとう。これからもずーっと一緒だよ」
「うん、これからもずっと、ね」
額をこつんと突き合せて、二人はにっこりと微笑んだ。
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HN:
神里 美羽
性別:
女性
趣味:
読書・カラオケ・妄想
自己紹介:
日々、アスキラとロク刹の妄想に精を出す腐女子です。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
ロク刹は年の差カッポー好きの神里のツボを激しく突きまくりで、最早、瀕死状態。
アスキラはキラが可愛ければ何でもオッケーで、アスランはそんなキラを甘やかしてればいいと思います。
そんな私ですが、末永くお付き合いください。
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